Mizuno on Marketing

あるマーケティング研究者の思考と行動

user experience はおもてなし

2008-03-24 21:14:25 | Weblog
鹿児島出張の往路で読んだのが,中島聡『おもてなしの経営学 アップルがソニーを超えた理由』(アスキー新書)。著者の努力が実って,現代用語の基礎知識が user experience の訳語として「おもてなし」ということばを採用したという。そうした意味での「おもてなし」というコンセプトを鍵として,グーグルが YouTube を買収し,アップルが最近成功していることを説明しようとしている。

面白いのは,中島氏がかつてマイクロソフトで Windows95 や IE の開発を推進してきたソフトウェア・エンジニアであるということ。アップルやネットスケープを追い落とすことに全力を傾け,それに成功したものの,元アップルの技術者から「マイクロソフトのプロダクツにはソウル(魂)がない」といわれたことが,非常にショックであったという。

その後,中島氏はマイクロソフトを去り,米国で起業する。アスキー,マイクロソフトをともに歩み,いまお互いにマイクロソフトとは距離を置く古川亮氏との対談では,二人とも iPhone を持って写真に納まっている。この対談を読む限り,マイクロソフトが君臨する時代はもう終わったと思えてくる。

しかし,だから次はグーグルの時代だ,と考えるのは早計だ。本書によれば,短期間で今の地位を築いたグーグルこそ,次のグーグルの登場を恐れているという。IT業界の事例研究から,何か一般的な戦略原則が見えてくるのか,逆にそのようなものがないことが見えてくるのか…どうも後者のように思えてくる。
おもてなしの経営学 アップルがソニーを超えた理由 (アスキー新書 55)
中島 聡
アスキー

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とはいえ,「おもてなし」という,これまでなら卓越した人的サービスについて語られてきたコンセプトをITの最前線に適用する試みは,特定企業の浮き沈みを超えて一般性を持つのではないか。やはりIT業界から出てきたサービス・サイエンスにとっても,マーケティングから工学に近づこうとするマーケティング・サイエンスにとっても,それは刺激的な視点である。

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