Mizuno on Marketing

あるマーケティング研究者の思考と行動

ESHIA/WEHIA2011@アンコナ

2011-06-23 19:20:12 | Weblog
最初の2日はチュートリアルに参加。最初に聴いたのが,
Annick Vignes 教授による "Social and Economic Networks and Simulations" という講義だ。パリ第二大学の先生で,経済学の領域で社会ネットワーク分析を適用してきた方のよう。

講義は,経済現象におけるネットワークの実証分析をいくつか紹介したあと,ネットワークの基礎理論に進む。基礎理論の部分は,ネットワーク分析の教科書に書かれていることがほとんどだが,復習になったと前向きに受け止めよう。

その間参加者の何人かに自分の研究を発表させるが,これは制限時間がないので,玉石混淆(?)の話を聞かされてややうんざりしてしまう。しかし,これは,チュートリアルを一方通行にしないという教育的配慮なのだろう。

彼女のこの分野での研究業績は,ベンチャーキャピタル間の共同出資やマルセイユの水産市場のネットワーク分析である。それらが必ずしも経済学的な理由で生成されたわけではないことを,計量分析を通じて証明している。

加えて,彼女のサイトに書かれた,Twilight of the Idols : Some Results about a Champagne Experiment, Journal of Wine Research, 2008 とか Fashion, Novelty, Optimality: an Application from Physics, Physica A, 2005 とかいう論文も気になる。

2日目は,Giorgio Fagiolo 教授による "Agent Based Models, Simulation and Validation" という講義。 Agent Based Model (ABM) の経済学への応用では有名な研究者だ。講義は ABM とは何か,経済学への意義から始まる。

次いで,円環上の空間で局所的に相互作用するコーディネーション・ゲームが紹介される。その帰結は条件次第で複数の均衡が分布する。この一見理論上の話は,あとでメインテーマの Empirical Validation (EV) の議論につながっていく。

ABM における EV とは,シミュレーションの出力を観察データに合わせるという単純な話ではない。出力のどの部分を,データの何に合わせるかに様々な戦略があり得る。出力の単純平均が不適切な場合があることが前の例からも分かる。

Fagiplo 氏は様々な EV 戦略を認めながらも,対象に関する Stylized Facts (SFs) をまとめて再現する戦略を好んでいるようだ。最後に紹介された成長モデルについて,この分野で知られた SFs を再現しているかが検討されている。

彼のモデルは技術を島と見なし,イノベーションを航海と見なし,模倣を島での採掘とみなす,きわめて「寓話的」なものである。そうでありながら,適切なパラメタ設定のもとで SF を再現すことを示した点が大変興味深い。

問題は何が当該テーマの SFs かを認定し,それをシミュレーション出力をどのように処理したうえで比較するかなど,多岐にわたる。そもそもシミュレーションが収束した状態だけを見ることについても議論の余地があるはずだ。

ABM における EV の議論は奥が深く,ここではとてもきちんと論じきれない。以前から考えてきた問題が,今回こちらが尋ねるまでもなく提起され,議論されたことで自信が深まるとともに,さらなる挑戦への刺激も受けた。

その結果,これまで行ってきた研究の一部を否定することにつながりかねないと思う。しかし,それは仕方がない。やや大げさにいうと,これは科学とは何か,何のために研究しているのかという,非常に大きなテーマとも関わってくる。

最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。