米国の Marketing Science Institute が2008~2010年の重点研究課題(Research Priorities)を発表した。その骨子は以下の通りだ。
- Accountability and ROI of Marketing Expenditures
- Understanding Consumer/Customer Behavior
- New Approaches to Generating Customer Insights
- Innovation
- Marketing Strategy
- New Media
このなかで唯一具体的なのが 1 である。前回の重点課題にも入っていたというから,アカウンタビリティと ROI の問題は,いぜんとして未解決だということだろうか。日本でも企業はそうした問題意識を持っているはずだが,学界は,必ずしもそうではないように思える。米国の「流行」に敏感なはずのに,なぜだろう?
ん?と思わせるのが 3 だ。ボディコピーを読むと,まずエスノグラフィーが例にあげられている。ところが次に virtual/simulated shopping approaches なるものが出てくる。これって仮想空間上での模擬購買のことだろうか?(10年ぐらい前にも,ゴーグルをかぶって3D仮想スーパーで買物するシステムの売り込みがあったなあ・・・)
他は当たり前なテーマばかり。サービス・イノベーションは,かろうじて 4 に顔を出す。しかし,以前課題にあげられていたはずの really-new product というテーマはそこに入っていない。課題から消えたという点では,ブランドも同じだ。米国のマーケティング研究者は,こうしたテーマをもはや重要とは思っていないのだろうか・・・。
6.の New Media というのは,とりあえずは CGM やモバイルのことであるが,直近の最大の問題は What is the role of the "old" media such as TV, print, and radio in the new communications environment? だという。つまり,クロスメディアのことだが,そのうち画期的な研究が出てくるのかどうか,おおいに気になる。
いずれにしろ,MSI のように研究の優先度を発表し,それに基づき研究をサポートしていくという仕組みは,研究の生産性を向上させるのに貢献する反面,研究の多様性を殺すおそれもある。もっとも,そうした機関のない日本のマーケティング学界で,多様な研究が花開いているかというと,いささか心許ない。
こういう重点課題のリストを,真にクリエイティブな研究をするためのネガティブ・リストとして読むという方法もある。自分自身の research priorities を発表したいところだが,あまりにそれと程遠い現実を省みて,当分控えることにする。