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“ジョウント”と呼ばれるテレポーテイションにより、世界は大きく変貌した。一瞬のうちに、人びとが自由にどこへでも行けるようになったとき、それは富と窃盗、収奪と劫略、怖るべき惑星間戦争をもたらしたのだ! この物情騒然たる25世紀を背景として、顔に異様な虎の刺青をされた野生の男ガリヴァー・フォイルの、無限の時空をまたにかけた絢爛たる〈ヴォーガ〉復讐の物語が、ここに始まる……鬼才が放つ不朽の名作!
中田耕治 訳
出版社:早川書房(ハヤカワ文庫SF)
本書は幾分評価に迷ってしまう作品である。
というのもこの作品、物語にうまく入り込んでいけない部分があるのだけど、おもしろいか、おもしろくないかで聞かれたら、それなりにおもしろいからだ。
うまく入り込めないのは、単純にプロットのいくつかが気に入らなかったからだ。
主人公のガリー・フォイルは壊れた宇宙船で数ヶ月にわたり漂流、半死半生の状態にまで追いつめられることになる。そんな折、たまたまその壊れた宇宙船の近くを、別の宇宙船が通過する。それを見た彼は救難信号を出すのだが、その宇宙船は彼を見捨てて遠くへと去ってしまう。ガリーはそのことを恨み、復讐を誓うこととなる。
それが本書の冒頭である。
僕はまずそこから納得がいかなかった。
もちろん物語だから、ある程度の設定を受け入れる準備はあるのだけど、その流れはどうも納得がいかない。
そういう状況になったら、確かにむかつくけれど、そこから猪突猛進に復讐を果たそうとする主人公の心理が、僕にはこれっぽちも理解できなかった。
大体、物語の展開にしたって、ご都合主義な面があって、気に入らないのだ。
特に主人公がピンチになったとき、爆撃が起きるところなど、都合がよすぎるってもんじゃないだろうか。
それが1回ならまだしも、2回も同じ展開があっては、引っかかって仕方がない。
そのほかにも、いちいちは挙げないが、ご都合主義な点はある。
でも文句を言いながら、なんだかんだでおもしろく読めることもまた事実なのだ。
それは物語にいろんな要素がつぎ込まれているという点が大きい。
SFであり、復讐劇であり、ミステリ的な要素もあり、政治的な駆け引きがあり、といろいろな楽しみを見出せて、読み応えがある。
それゆえに荒削りな面が目立つのだけど、それがために物語に勢いが生まれているのだ。
それにラストのメッセージ性の強い展開もなかなか興味深い、と思った。
要は自分の意思で行動し、自分の責任を引き受けて、逃げずに生きていけ、ということをそのシーンでは訴えているのだろう。
それは人間の可能性を信じているからこその言葉であり、物語の展開と同じく、実に力強い。
本書に対する不満はかなり大きいことは否定しない。
だがそのラストのパワフルな訴えと、物語の勢いもあり、読み終えての後味自体はなかなか良いのである。
評価:★★★(満点は★★★★★)
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