私的感想:本/映画

映画や本の感想の個人的備忘録。ネタばれあり。

『灯台守の話』 ジャネット・ウィンターソン

2011-11-22 20:00:34 | 小説(海外作家)

孤児となった少女シルバーは、不思議な盲目の老人ピューにひきとられ、灯台守の見習いとなる。夜ごとピューが語る、数奇な二重生活を送った牧師の物語に導かれ、やがてシルバーは真実の愛を求めて独り旅立つ―二つの孤独な魂の遍歴を描いた傑作長編。
岸本佐知子 訳
出版社:白水社(白水uブックス)




キュートな作品である。
そうかぁ?という意見も出そうな気はするが、少なくとも僕はそう感じる。

それは、愛というテーマが奥底にあるからかもしれないし、灯台という舞台設定もその一因かもしれない。
だがこの作品のかわいらしさは、盲目の灯台守ピューと、孤児の少女シルバーの二人の会話によるところが大きい、という気がする。


崖の上に突き刺さるようにして建つ家に住むシルバーは母を失い、灯台守のピューに育てられることになる。
そういう設定で始まる物語だが、冒頭からしてかなり変だ。
崖の上に斜めに建っている家という時点で変だし、そこで暮らすには命綱が必要という時点で、おもしろい。
おかげで一気に物語に入り込めるのは魅力だ。

ピューに引き取られたシルバーは、ピューから主として、灯台をめぐるいくつかの話を聞かされることとなる。
そのときの二人の雰囲気がともて愛らしい。

お話して、ピュー。
どんな話だね?
ハッピー・エンドの話がいいな。
そんなものは、この世のどこにもありはせん。
ハッピー・エンドが?
おしまい(エンド)がさ。

っていうところが個人的には一番好きなのだが、その会話を読んでいるだけでも、二人の親密さと何かを伝えようとするピューの気持ちが感じ取れるようだ。
まるで祖父と孫娘みたいなたたずまいに、読んでいるだけで、ほくほくとした気持ちになれる。

二人の間にあるのは、まちがいなく愛情なのだろう。
二人はお話をすることで、愛情を交わし合っているように、僕には見える。

そしてその愛は、灯台の存在とも無縁ではないのだろう。
暗闇の中の一つの点で、自分を導いてくれるもの。それが灯台であり、すなわちは愛情のメタファーと感じるからだ。


さて、ところでこの小説では、ピューとシルバー以外に、バベル・ダークという男の話も並列して語られる。
ダークは疑心暗鬼からモリーという恋人を捨てるけれど、彼女のことをまったく忘れられないでいる。そして退屈で想像力のかけらもない妻にうんざりしている。そういう男だ。
その人生を例えるなら、「自分の人生の異邦人」になっているといったところである。

そんなダークは、モリーと再会し、再び愛し合うこととなる。けれど、二人に幸福が訪れるわけでもない。
それはダークが既婚者だからということもあるが、それ以上に、ダークの中には闇があるからなんだろうな、と中盤のモリーの述懐を読んでいると、感じられてならない。
そしてその結果、彼はとても切ない決断をすることとなる。

そしてそれはある意味では、シルバーの先行きとはずいぶん対照的なのだ。


ダークとシルバー、二人は誰かを愛していたし、誰かに愛されていたという確かな記憶を持っている。
けれど、ダークは過去の中に沈むことを選び、シルバーは何とかポジティブに生きていくことを選んだ。
それは、シルバーがピューから物語という形で、愛されていたという記憶をたくさん受け継いだからかもしれない。そんな風にも感じられるのだ。

そして愛されていたという記憶を持つ彼女は、次は自分自身が自分の愛する相手に向けて、お話をしていくこととなる。
そうすることで人は、愛されていたという記憶を連鎖のように愛する人へと与えていくのかもしれない。
ダーウィンの理論を持ち出すまでもなく、この世に揺るぎないものなんてない。だからこそ、揺るぎある世界の中では、その連鎖こそが、たぶん大きな灯火なのだ。

そんなことを、読み終えた後に、ぼんやりと感じた次第である。

評価:★★★★(満点は★★★★★)

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