私的感想:本/映画

映画や本の感想の個人的備忘録。ネタばれあり。

『ドキュメント死刑囚』 篠田博之

2009-12-17 21:07:16 | 本(人文系)

子どもを襲い、残酷に殺害。そして死刑が執行された宮崎勤と宅間守。また、確定囚として拘置されている小林薫。彼らは取り調べでも裁判でも謝罪をいっさい口にせず、あるいはむしろ積極的に死刑になることを希望した。では、彼らにとって死とは何なのか。その凶行は、特殊な人間による特殊な犯罪だったのか。極刑をもって犯罪者を裁くとは、一体どういうことなのか。
彼らと長期間交流し「肉声」を世に発信してきたジャーナリストが、残忍で、強烈な事件のインパクトゆえに見過ごされてきた、彼らに共通する「闇と真実」に迫る。
出版社:筑摩書房(ちくま文庫)



著者は死刑反対の立場を取る人間だ。
理由はまとまった文章では書いていないが、少なくとも加害者の人権を思って、という、いわゆる人権派の考えとは違う。

彼の考えを、あえて一言で主観的に要約するならば、真実をとことん暴いていきたい、その一点に尽きると思う。
短絡的に犯罪者を死刑に処するだけでは、何の解決にもならない。彼らが犯行に及んだ理由を、総合的な形で明らかにしなければいけない、ということなのだろう。
そういう意味、彼は筋金入りのジャーナリストだ。


そんな人物にふさわしく、死刑の真相に迫ろうとするジャーナリズム精神は、誠実そのものだ。
死刑囚の内面を何とか解き明かそうと、本人たちの生い立ち、心情に鋭く、しかし丹念に迫っている。実に丁寧な仕事である。

本書では、埼玉連続幼女殺害事件の犯人である宮崎勤、奈良女児殺害事件の小林薫、大阪教育大附属池田小事件の宅間守の人物像に迫っている。

彼らに共通するのは、支配的な父親、社会規範意識の薄さがあげられそうだ。
特に前者は、いろいろ考えさせられる。
以前別の本で読んだことがあるが、凶悪な殺人事件を起こす犯人は、家庭がいびつである場合が多い。この三人もその例に漏れないらしく、彼を守ってくれる存在が家庭にはいなかった(もしくはいなくなった)ようだ。
もちろん、それですべてを帰結してはダメだけど、共通項としては興味深い。

そんな死刑囚の状況や生きてきた環境、強がりを言ってしまう心情などを、手紙のやり取りなどを通じて、露わにしている。
死刑囚の人物像が、しっかりと伝わってくるあたりは見事である。


だがそんなアプローチをしながら、著者は死刑囚の側だけに寄り添っているわけではない。

それを端的に現すのが、小林薫の章での、被害女児の親の証言だろう。
そこには、愛娘を唐突に殺されてしまった両親の悲しさと喪失感と怒りが強く現われていて、読んでいるだけでも、悲しい気分になる。
どんな理由があれ、人を殺すということが重い罪であることを、強く示すような証言だ。
どれだけ加害者の事情を汲んでも、犯した罪を決して赦すべきではない。

そこはきちんとバランスの取れた構成になっている。


だが犯した罪はともあれ、ここで出てくる死刑囚は異質な面こそあるものの、異常というのとは少し違う、と僕には感じられた。
何かしらの憎悪を持ち、反社会的ではあるものの、人並みにトラウマを抱え、人間としての弱さを持つ。普通にいてもおかしくはない人間ばかりである。

そんな死刑囚たちは絶対に赦されない罪を犯し、被害者やその家族を苦しめた。
なぜこんなことを犯したかは、ある程度のレベルまでなら語ることはできる。
だがなぜこんなことが起きなければいけないのか。その答えは決して出ない。

そしてその答えの出そうにない答えを、もう少し時間をかけて考える必要があるのだ。
ああ、もうこんなやつ死刑にしろよ、とか言って、簡単に終わらせるだけではなく。

本書を読んでいると、そんなことを思う。見事なドキュメントである。

評価:★★★★(満点は★★★★★)

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