私的感想:本/映画

映画や本の感想の個人的備忘録。ネタばれあり。

『モモ』 ミヒャエル・エンデ

2007-06-07 20:42:02 | 小説(児童文学)


町外れの円形劇場の廃墟に住みついた少女モモ。彼女と話すと誰もが幸福になり、モモは町の人から愛されていた。そんなある日、町に灰色のなぞの男たちが現れる。彼らは「時間どろぼう」で、町の人の大事な時間を奪い始める。
「はてしない物語」などで知られるドイツの児童文学作家、ミヒャエル・エンデの代表作。
大島かおり 訳
出版社:岩波書店(岩波少年文庫)


名作童話として名高いが、なるほど普通におもしろく楽しんで読めた。

これは1970年代に書かれた物語だが充分に現代にも訴える力のある物語である。経済的にどんどん豊かになり、時間に追われるようになった頃の時代。それから何一つ改善されないまま、むしろ悪化したまま現代にたどり着いているからだ。
ここでは仕事のための時間に追われ、そのほかの人間とのコミュケーションや、睡眠時間、思索の時間が奪われた人間の姿が描かれている。それにより人間としての心の余裕を失い、他人への関心をなくし、誰もが自己中心主義へと走っている。まさに現代にも通じるものがある。

個人的にはニノの店でのやり取りが印象に残っている。ああいう店では何もかもベルトコンベア式なのだ。
僕はまさにそういう中で育った世代なので、気にも止めないが、世代的には違和感を感じる人も入るかもしれないし、知り合いがやっているのなら、何となくさびしい思いを抱くのかもしれない。そんなことを気付かせてくれる。

そんなテーマ性を含んだ世界を、詩的かつエンタメ的な演出で紡ぎ上げている。
詩的な面としては、マイスター・ホラの年齢が次々と変わる様や、時間の花の誕生と消滅などは幻想性が出ていて美しいと思う。
エンタメに関しては読めばわかるだろう。ラストの方などはわくわくしながら読むことができた。童話ということもあり、あくまで子供に楽しんでもらえるように考えて描いたのだろう。
しかし童話という体裁をきっちり整えつつも、大人が鑑賞しても申し分ないものがある。本作のすごいところはその点にあるのだ。

ずっと前に読んだ「はてしない物語」はあまり楽しめなかったが、この作品なら万人にも受けるだろう。一読の価値ある作品だ。

評価:★★★★★(満点は★★★★★)

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