私的感想:本/映画

映画や本の感想の個人的備忘録。ネタばれあり。

『ミュージック・ブレス・ユー!!』 津村記久子

2011-10-21 20:45:42 | 小説(国内女性作家)

オケタニアザミは「音楽について考えることは、将来について考えることよりずっと大事」な高校3年生。髪は赤く染め、目にはメガネ、歯にはカラフルな矯正器。数学が苦手で追試や補講の連続、進路は何一つ決まらないぐだぐだの日常を支えるのは、パンクロックだった!超低空飛行でとにかくイケてない、でも振り返ってみればいとおしい日々。野間文芸新人賞受賞、青春小説の新たな金字塔として絶賛された名作がついに文庫化。
出版社:角川書店(角川文庫)




一言ですませるなら、僕好みの小説ってところである。

とぼけた笑いがあって、キャラがおもしろくて、だけど青春小説らしくもやもやした部分があって、同時に爽やかな部分があって、変に熱くて、変に引いていて、読んでいるとよくわからない心地よさを感じる。
僕にとって、この上ないほど魅力的な作品なのだ。


それでも一個だけ、本書の美点を挙げろと言われたら、主人公のオケタニアザミの魅力を挙げるだろう。
友人のチユキや、モチヅキとトノムラの男子もいいキャラだけど、アザミが抜きん出ておもしろい。

アザミは、髪の毛を真っ赤に染めて、歯に派手な色の矯正器をつけた、メガネの少女だ。外見だけだとアグリー・ベティを派手にした感じだろうか。
そういうある意味、悪目立ちしている人だけあって、ちょっとおかしな子でもある。
基本はローテンションで、間が抜けた感じもあって、そのためか、いろいろな発想やら観察やらが微妙にとぼけている。
大量のあぶらとり紙を見て、これを発電に使えないだろうか、と考えるところが僕は好きだ。
彼女の思考やら行動を読んでいると、にやにやしてしまう。

また音楽に対するのめり方も半端ではない。
洋楽パンクに関して僕は何も知らないけれど(彼女が好きなバンドでまともに聴いたことがあるのはニュー・ファウンド・グローリーくらい。むしろ彼女がそれほど好きでもないっぽい、アヴリルとかリンキンの方を聴いてる)、少なくともディープな知識を持っているな、と感じる。
洋楽おたくで、社会不適応者っぽい、という言葉に、それは自分のことだ、と反応するところからしても、重症だという自覚症状はあるのだろう。

加えて頭の回転が遅そうなためか、かなりギリギリのタイミングになるまで、自分の進路を決めていない。
そういう意味でも、社会的にやっていくのはいろいろ苦労するんだろうな、と感じさせられる。


そんな欠点まみれの彼女だけど、人としてはとっても魅力的な子だ。
そう感じるのは、近しい人間を大事に思っており、不正に対して敏感だからだ。
基本的に彼女らの周りには、世の中の社会がそうであるように、心ない言葉や態度を取る人がいる。
それに対して誰かが傷ついたら、アザミはその子を守るために動いたりする。

個人的には、オギウエをなじったところが良い。
それを最初に読んだときは、ずいぶん行動が極端だな、と思ったけれど、彼女がそんなことをしたのは、無意識のうちにチユキのことを考えていたからなんだなと、後になってから気づかされ、じーんと胸が震える。
アザミ当人は自分の気持ちに気づいていないけれど、そんな彼女の無意識の行動はあまりに熱い。

もちろん文化祭でのアザミとチユキの犯罪まがい(つうか犯罪だな)の行動もおもしろい。
モチヅキをなぐさめるところも、彼女の気まずいながらの優しさが伝わってきて好きだ。一連のやり取りには笑ってしまったけれど。
ラストのアニーに対する思いもすてきである。

世間的に見れば、小学校の担任が冷たく言い放ったように、彼女は社会不適応者かもしれない。
けれど、当人のことをちゃんと知れば、人としてのすてきな部分にいくつも気付かされる。
それが読んでいて心地よい。


そんな彼女の将来に対するもやもやした思いやら、恋やらがとぼけた味わいと雰囲気の中で、描きつくされていて、楽しい。
触れなかった以外にも印象的なシーンが多くて、ラストに淡い感動を覚えるところもいい。

感想としてはまとめにくい話なのだが、ほかの津村記久子作品も読んでみたい、そう思わせる力がある。
いけてない女子の、いけてない日常を、独特のトーンで描いた、まさしく一級の青春小説である。

評価:★★★★★(満点は★★★★★)



そのほかの津村記久子作品感想
 『ポトスライムの舟』


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2 コメント

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読みました~! (かな)
2012-12-18 22:51:11
qwer0987さんが紹介されているのを拝見して読みたくなり、購入しました(^ ^)

主人公のアザミの不器用なところが、リアルな感じで日常の出来事が淡々と語られていてすごく良かったです!何だか、その雰囲気が心地よく感じました!

チナミの男前な性格がすごくいいですね~!
歯の矯正仲間のモチヅキも素直で明るい子で好感持てます!アザミも個性的ですが、とてもいい子ですよね!

qwer0987さんのおっしゃる通り、モチヅキをアザミがなぐさめるシーン笑ってしまいましたぁ(^ ^)スゴイなぁと思いましたが、不器用なアザミらしく、妙にリアルでした(笑)

最後にアザミがヘッドホンをはずして歩く事ができたところは爽やかな感動でした♪少しずつ成長していってて良かったです(*^_^*)他にはない青春小説ですね~!

表紙のイラストもピッタリで可愛いですね♪
教えて下さり、ありがとうございました★


こんばんは (qwer0987)
2012-12-19 21:26:11
かなさんも読まれたんですね。楽しめたみたいで、ありがたいことです。

アザミは本当におもしろい子だと思います。不器用だけど、なかなかいいやつですよ。
モチヅキをなぐさめるところなんか、おもしろいですよね。この子はアホだろうか、とも思うけれど、そういうところも含めて好きです。

友達のチユキもいいやつだし、津村記久子作品は、キャラが個性的な人が多くて好きです。
はまる人は、とことんはまる作家だと思います。

表紙もすてきですよね、ジャケ買いしたくなるほど、雰囲気いいです。

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