私的感想:本/映画

映画や本の感想の個人的備忘録。ネタばれあり。

「ラースと、その彼女」

2009-01-05 19:59:50 | 映画(ら・わ行)

2007年度作品。アメリカ映画。
ラースは誰よりも優しくて、純粋。でも、極端にシャイ…。ずっと彼女がおらず、ラースに片思いしている同僚の好意からも逃げてしまうようなラースを周りの人も心配している。そんな彼がある夜、「紹介したい人がいるんだ」と兄夫婦の元にやってきた。喜ぶ二人だったが、ラースが嬉しそうに紹介したのは、等身大のリアルドールだった!
監督は新進気鋭のCM作家、クレイグ・ギレスビー。
出演は「きみに読む物語」のライアン・ゴズリング。「Dear フランキー」のエミリー・モーティマー ら。


奇妙な味わいとほんのりした優しさに包まれた映画、それが見終わった後の感想である。

奇妙な味わいとは当然ながら設定のことだ。
人付き合いの苦手なラースがダッチワイフを恋人だと称して兄夫婦に紹介する。そこからしてまずおかしいし、何とも言えない気まずさを醸し出しているのがツボである。どう接していいかわからず混乱している兄夫婦の姿にも失礼だけれど笑ってしまうものがあった。

そしてそのおかしみを誘うのはキャラの力もあるだろう、と個人的には思う。
ちょっと内気なラースも、母性を持った兄嫁も、大人の男だなという対応を見せる兄もキャラクターがしっかり描かれているから、よりおかしさを誘うところがあるのではないだろうか。

そんな心を病んでいるとしか思えないラースに対して、みんなは実に優しい対応を見せる。
兄夫婦は決して投げ出さず、みんなに相談してしっかりラースに向き合うし、町の人たちも(偏見こそあれ)ラースと話を合わせて見守っていく。
その雰囲気は温かく、あまりに麗しい。こういう空気を映画内につくり出すだけでも見事なものだ。

そういう周囲の空気や、人間関係の変化もあり、ラース自身も少しずつ変化していく。
その変化にはいろいろな解釈を加えることは可能だ。
ラースは、心を病んだような行動を取り、人との接触に強烈な恐れを感じているが、その理由として、陰気な父親と長年一緒にいたことや、母を早くに失い母性に対して憧憬を持っていることを当てはめるのは可能だ。
だがつくり手は解釈という押し付けがましいものを付与せず、物語を進めている。その点は本当すばらしい。

そしてラースの小さな変化を積み重ねることで、彼が成長しているな、という手応えを観客に感じさせていく点には非常にセンスが感じられる。
その手応えがあるからこそ、ラストには美しい余韻が生まれていた。そして後味も爽やかな佳品となりえているのである。

評価:★★★★(満点は★★★★★)


出演者の関連作品感想
・エミリー・モーティマー出演作
 「マッチポイント」

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