私的感想:本/映画

映画や本の感想の個人的備忘録。ネタばれあり。

『謎解きはディナーのあとで』 東川篤哉

2011-06-08 19:52:27 | 小説(国内ミステリ等)

「失礼ながら、お嬢様の目は節穴でございますか?」令嬢刑事と毒舌執事が難事件に挑戦。
ユーモアたっぷりの本格ミステリ。
出版社:小学館




良くも悪くも軽い作品だな、というのが、個人的な本作の印象だ。

ストーリーは安っぽい連続ドラマ風で、犯人がなぜそんな行動で犯行の隠ぺいをしたのか、理解できないときもある。もちろん理由は説明されているけど、もっと要領のいい方法だってあっただろう、と感じる面もなくはない。
それに、犯人の動機もありきたりのものばかり。それがいかにもとってつけたように見えてしまい、どうもな、と読んでいて思ってしまう。

またキャラクターの造形もテンプレ通りという印象を受ける。
特に風祭のキャラクターは、マンガなどで見るようなお金持ちキャラの域を出ていない。


しかし本書はユーモアミステリなのだ。
軽くてなんぼのもんじゃないってとこなんだろう。
テンポ良く読み進められる点は美点と思うし、ときどき導入されるコメディタッチな展開にくすりとさせられるのは事実なのだ。

作品のコメディタッチな雰囲気には、テンプレ通りのキャラクターたちの存在が欠かせないと思う。
どれもありきたりなキャラクターたちだけど、これだけ動いてくれるなら、まあいいや、という気分にもなる。
影山の毒舌も、なんだかんだ言いながらも、読んでて結構楽しい。
ラストに向かって、二人の間に信頼性めいたものがきっちりできあがってる点も良い。


だが本作の最大の長所は、そんな軽さやキャラクターにあるのではない。
本書でもっとも優れているのは、謎解きのロジックにある。僕はそう思うのだ。

本書の中には、そんなに難しく考えなくてもわかるトリックもあるが、多くの作品は綿密にロジックが組み立てられていて(ツッコミどころはあるけれど、論理性はしっかりしている)、構成も上手い。
なぜそんな行動で犯人が犯罪を行なったかを説明するシーンは、普通におもしろい。
意外な人物が犯人でした、という場合もあり、そういうときは心踊ってしまう。


本作は、これまでの本屋大賞受賞作と比べると弱いとは思う。
だけど、エンタテイメントとしてのおもしろさにあふれた作品で、気軽に何も考えず読むことができる。

本を普段読みなれていない人に薦めるにはちょうどよい。
そういう観点からすると、本屋大賞という書店員が選ぶ賞として、本書は適切な作品と言えるかもしれない。

評価:★★★★(満点は★★★★★)

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