里見の勤める学校の生徒が自殺未遂を起こす。母親の仁科は息子が出した手紙を学校側が無視したのが原因だ、と連日抗議に来る。その手紙を破棄したのは里見だったが、同僚の石原の糾弾に対して里見は白を切ろうとする。
「劇団、本谷有希子」第11回公演の戯曲。鶴屋南北戯曲賞受賞作。
出版社:講談社
本谷作品はこれまで少ししか読んだことはないのだが、自意識の強い人間を描くのが上手いという印象がある。この作品に出てくる里見という女性も、本谷有希子らしく自意識の強さを感じさせるキャラである。
作者の言葉を借りるなら里見は「性格の悪い女性」だ。自分の責任を棚上げして逃げまくり、その責任を他者に押し付けている。その姿は非常に醜く、同時に強烈な個性を感じさせる。
しかしその醜さも個性も笑いを交えて描いているため、不快ないやらしさを感じさせないのが、賞賛すべき点だろう。
物語は適度に笑いあり、小さな山場が適度に挿入されていたりで、なかなか楽しめる。
途中で、トラウマというありきたりな手を用いたときは若干げんなりしたが、そこからひねりを入れるあたりがすばらしい。あとがきにもあるが、苦しみながら書いた成果が読み手に伝わってきて好印象だ。
しかしトラウマにすがる、という里見の姿には人間の弱さが感じられて、少し悲しい。
自分の性格の悪さを自覚していても、どうすることもできず、他人に責任を転嫁せずにはいられない姿はある意味、かわいそうになってくる。自分の心が守るよすががそんなものにしかないのだとしたら、里見という女性はただ哀れだ。
しかしラストのあくびからして、彼女はそれでもしぶとく生きていくのだろう。トラウマというよすがを失っても、新たな責任転嫁を見つけて、それで心を安定させていくような気がする。
そう感じさせるラストシーンには苦笑の交じった余韻があり、独特の印象を残した。
評価:★★★★(満点は★★★★★)
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