老練な女用心棒バルサは、新ヨゴ皇国の二ノ妃から皇子チャグムを託される。精霊の卵を宿した息子を疎み、父帝が差し向けてくる刺客や、異界の魔物から幼いチャグムを守るため、バルサは身体を張って戦い続ける。建国神話の秘密、先住民の伝承など文化人類学者らしい緻密な世界構築が評判を呼び、数多くの受賞歴を誇るロングセラーがついに文庫化。痛快で新しい冒険シリーズが今始まる。
出版社:新潮社(新潮文庫)
上橋菜穂子作品を読むのは初めてだが、単純におもしろい作品だった。
よくできたエンタテイメントというのが率直な感想である。
この作品の魅力はやはりバルサのキャラに依るところが大じゃないか、と思う。
三十というファンタジーとしてはいささか薹が立った人物が主人公だけど、短槍使いの活躍は大層男前で魅力的。
それだけで物語に入りこめるのが良い。
そんな彼女は父帝から命を狙われる皇子チャグムの用心棒として行動することとなる。
チャグムも賢い少年らしく、心に残る。
最初皇子然としていたところから、バルサたちと心を通わせていく過程は読ませどころだ。
またバルサとタンダとの関係も読み手をやきもきさせてくれて楽しい。
期待を外さない王道の要素を持ちながらも、これだけ読ませるのはさすがだ。
民間伝承や伝説などを、物語中に組み込ませるのは、作者がそれを専門分野としている学者だからだろう。
その辺りの設定の深さも、おもしろい作品である。
読み終えた後、長く残るものはないが、読んでいる間は楽しく、しっかりと読み手の心をつかんでくる。
まぎれもない王道の作品であった。
評価:★★★★(満点は★★★★★)
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