孤独な毎日をおくる留学生太田豊太郎は、ふとしたきっかけで知った美貌の舞姫エリスと激しい恋におちた。すべてをなげ出し恋に生きようとする豊太郎に、前途を心配する友人の相沢は、手をつくして帰国をすすめた。19世紀末のベルリンを舞台にくりひろげられる、激しくも哀しい青春の彷徨。
鴎外の自伝的性格の表題作のほか、初期の傑作短編「うたかたの記」「文づかい」と翻訳「ふた夜」を収録。
出版社:角川書店(角川文庫)
「舞姫」という作品を読んだのは、高校の教科書でのことだった。授業ではその作品を扱うことはなかったのだが、授業中のひまつぶしにたまたま読んだとき、その作品世界の空気に感動したのを覚えている。
物語は、ドイツに留学している日本人が踊り子の女と出会い、恋に落ちるという展開だ。メロドラマティックであり、ドイツが舞台という異国情緒があるせいか、ロマネスクな雰囲気も漂っている。
その情景が文語体の雅やかな文章と大変マッチしているのが印象的だ。
ラストの展開は、個人的な感情としては許しがたく、結局妊娠した女を捨てる優柔不断な男に腹立たしさも覚える。感情だけで突っ走るなら、この小説は好きになれない。
けれど、小説として見るなら、構成は巧みで優れている、と僕は思う。
いろいろ思うところもあるが、作品そのものには高い評価を下してもかまわない、と思っている。
しかしこの短篇集は「舞姫」以外の作品がいただけなかった。
併録の「うたかたの記」「ふた夜」「文づかい」は読んだ後、「舞姫」ほど胸に響いてはこず、肯定的な感情はもちろん、不快だというマイナスの感情すらも呼び起こすことはなかった。
理由はその浪漫的な世界とご都合主義的な展開が、あまりに虚構じみて感じられ、上手く作品世界に没入できなかったことが大きいだろう。
とはいえ、さすが文豪。物語の構成としては悪くない。
「うたかたの記」は狂気を軸に物語を書いているあたりがおもしろいし、女が国王の狂気に呼応するように死んでいく様がユニークだ。
「ふた夜」は前半部の牧歌的な雰囲気と、後半の戦争と破滅的なラストとがいい対象になっていて興味深い。
「文づかい」はイイダ姫の心情をかくして話を進めていく部分や、笛の男の存在がいい味を出していたと思う。
しかしそれだけと言えばそれだけだ。
同時代の漱石や、同じく短編に強い芥川に比べると、鴎外は個人的には苦手である。要は僕の趣味ではないということらしい。
評価:★★(満点は★★★★★)
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