私的感想:本/映画

映画や本の感想の個人的備忘録。ネタばれあり。

「おくりびと」

2008-09-19 20:24:01 | 映画(あ行)

2008年度作品。日本映画。
求人広告を手にNKエージェントを訪れた主人公・大悟は、社長の佐々木から思いもよらない業務内容を告げられる。それは納棺、遺体を柩に納める仕事だった。戸惑いながらも、妻の美香には冠婚葬祭関係=結婚式場の仕事と偽り、納棺師の見習いとして働き出す大悟。そこにはさまざまな境遇のお別れが待っていた!
監督は「壬生義士伝」の滝田洋二郎。
出演は「シコふんじゃった。」の本木雅弘。「秘密」の広末涼子 ら。


祖父が5歳のときに亡くなってから僕は近親の死に立ち会ったことはない。そういうこともあってか、「おくりびと」という映画を通して僕は初めて納棺師という職業があることを知った。
死んだ人を拭き清めて、死化粧をほどこし、棺に納めるという納棺師の職業は見ているとどこか静謐さが感じられる。そこに儀式めいた所作があるせいかもしれないが、宗教的な厳粛さが漂っており、聖性すら見受けられた。
冒頭でそんな納棺師の仕事が描かれたことで、一気に映画世界に引き込まれてしまった。

納棺師の仕事ぶりはともかく鮮やかだ。
死者の青ざめてやつれきったような表情が、死化粧を施すことで、生きているかのような色合いを取り戻していく姿は感動的ですらある。家族が死化粧を見て、涙を流すのもむべなるかな、と思わせる美しさがそこにはあった。
やや泣きをあおろうとしている向きが鼻につくが、これもまたありであろう。

だがそんな納棺師という職業も、死人を相手にしていることもあり、人から忌み嫌われる。
穢れ思想が底辺にあるし、人間の死というものは日常生活では異質のもので、ときに不衛生であることも影響しているのだろう。そこにある人間の感情を否定することは難しいものだ。

だが死は誰にでも訪れるものであり、納棺師という仕事は必要とされている。
それに納棺師という仕事は決して汚らわしいだけの仕事ではないのだ。
主人公が人に忌み嫌われる自分の仕事に対して誇りを見出し、周囲もそれを受け入れていく過程は何とも麗しいものがある。

また死を通して、生をクローズアップしているあたりもすばらしい。
人間はいつか死ぬ。だがそれでも生きていくし、死を通して何かを受け取っていく。そのシンプルな姿を描く様が淡い感動を生んでいる。

後半のストーリー展開がベタだったり、泣きの煽りがあざとかったり、広末演じる妻が夫を拒否するセリフがどうしても腑に落ちなかったり、と気に入らない部分もあるが、本木も広末も好演をしていて、ストーリーも申し分ない。
今年の日本映画では、「接吻」「ぐるりのこと。」と並ぶ優れた作品である。

評価:★★★★★(満点は★★★★★)


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