17歳の青年は、新天地アメリカで何を見たのか。故郷プラハを追われた青年は、剣をもつ自由の女神に迎えられ、ニューヨーク港に到着する。しかし、大立者の伯父からも放逐され、社会の底辺へとさまよいだす。
従来『アメリカ』という題名で知られたカフカ3大長編の一作を、著者の草稿版に基づき翻訳した決定版。
池澤夏樹=個人編集 世界文学全集 Ⅱ-02
池内紀 訳
出版社:河出書房新社
解説で池内紀も触れているが、17歳というのは子どもと言うには大きすぎるし、大人というには未熟な移行期だ。
だがそれゆえに、この時期の(少なくとも)男子は、たとえひねていても、大人にはないまっすぐな部分がどこかにある。
主人公のカール・ロスマンも充分にまっすぐな部分があって、それが読んでいて好ましく映る。
たとえば冒頭の火夫の章などは、そんなまっすぐさが出ているのではないだろうか。
「正義が問題なんです」と言うセリフなんかは特にまっすぐさが際立っている。一度は言ってみたいよなって思うような言葉で、その青臭い若造らしさが僕は好きだ。
だがそんなまっすぐで未熟な青年が生きるには、カフカの世界は結構厄介なのである。
たとえばアメリカで出会った伯父は原理を重んじないという厳しすぎる理由でカールを捨てるし、ホテル・オクシデンタルではボーイ長からは冷たくクビにされ、門衛主任からは勘違いによる理由で不当な扱いを受ける。それにドラマルシュやロビンソンのような小悪党からはとことんつきまとわれる始末だ。
調理主任やテレーゼみたに優しい人物もいるけれど、基本的にカールは呪われているんじゃないの?っていうくらいに、運命に翻弄されている。もっともカールにまったく責任がないわけではないけれど。
そんなカールの運命の変遷は物語としては荒っぽいくらいに、むちゃくちゃで、何で、そうなるのって、問い返したくなる部分が多い。
そのストーリーのわけのわからなさが学生時代、本書(『アメリカ』のタイトルの方)を挫折するきっかけになったのだが、そのむちゃくちゃさが今回読んでみたら、おもしろいとまではいかないまでも、くせになるからふしぎなものだ。
その不条理な世界の中にいながら、それでもまっすぐなカールの姿が印象的である。
基本的にカフカは『変身』と『城』を読んでおけば充分だと思うし、そちらの方がおもしろいが、これはこれで悪くない。絶賛はできないが、それなりの作品だと僕は思う。
評価:★★★(満点は★★★★★)
同時収録: クリスタ・ヴォルフ『カッサンドラ』
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Ⅰ-11 J・M・クッツェー『鉄の時代』
Ⅱ-02 クリスタ・ヴォルフ『カッサンドラ』
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