私的感想:本/映画

映画や本の感想の個人的備忘録。ネタばれあり。

『木曜日だった男 一つの悪夢』 チェスタトン

2008-06-19 21:56:52 | 小説(海外作家)

この世の終わりが来たようなある奇妙な夕焼けの晩、十九世紀ロンドンの一画サフラン・パークに、一人の詩人が姿をあらわした。それは幾重に張りめぐらされた陰謀、壮大な冒険活劇の始まりだった。日曜日から土曜日まで、七曜を名乗る男たちが巣くう秘密結社とは。
ブラウン神父シリーズで名高いイギリスの作家、G・K・チェスタトンの幻想小説。
南條竹則 訳
出版社:光文社(光文社古典新訳文庫)


ストーリーの出足自体はオーソドックスで、潜入捜査を依頼した暗闇の男など、謎に関してはわかってしまう部分はある。
だが無政府主義者の会合に潜入捜査するという展開や、そこから二転三転していくストーリーは探偵小説らしい骨格を保っていて興味深い。

しかし本作はそういったオーソドックスな骨格にとどまらない展開へとなだれ込んでいる。そのため読み終えた後には、ずいぶん変てこな作品だな、という印象を持った。
たとえば刑事たちが無政府主義者に追われる展開など、探偵小説のくせしてきわめてのんきな雰囲気がある。銃で撃たれて、車をぶつけてもいるのに、悠長に会話を交わしたりと、どこかとぼけた味わいがあって、妙な感じだ。
それに逃走する日曜日が投げつけるふざけた言葉も茶化したような味があってユニークだ。

そんな独特のテンポで進む物語は、思想小説的な不可思議なラストへと突入していく。
正直言って、僕はこのラストをうまく理解することができなかった。それもこれも日曜日というキャラのメタファーを読み取れなかったのが大きい。

そんな状況で、誤読を恐れずに言うならば、この小説は自伝的な青春回顧小説だろう、という風に僕は受け取った。
青春期は無政府主義的な思想に惹かれることもあったのかもしれない。だが最終的に世界そのものを肯定的に受け入れようとしている。そのような若き日の心理過程を、エンタメのオブラートに包んで、読者に提示した作品という風に僕は解釈した。

幾分抽象的な言葉も多く、正確に読み取ることができたとも思えないが、ずいぶん破天荒で独特の味があるのが印象深い。
必ずしも好みではないが、凡庸な作品よりもよっぽど幸福な読書時間を過ごせることはまちがいないだろう。

評価:★★★(満点は★★★★★)

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