奇術ショウの仕掛けから出てくるはずの女性が姿を消し、マンションの自室で撲殺死体となって発見される。しかも死体の周囲には、奇術小説集『11枚のとらんぷ』で使われている小道具が、壊されて散乱していた。この本の著者鹿川は、自著を手掛かりにして真相を追うが…。
奇術師としても高名な著者が、華麗なる手捌きのトリックで観客=読者を魅了する泡坂ミステリの長編第1弾。
出版社:東京創元社(創元推理文庫)
奇術と本格推理は似ている部分があるんだな、と本作を読むと気づかされる。
どちらも謎めいたできごとで読み手を魅惑し、その謎をかくすため相手が考えることの裏をかこうとする。
もっとも、奇術は謎が最後まで相手にばれないことがベストであり、本格推理は相手にその謎の答えを教えることが主眼にあるという、大きな違いはあるけれど、両者には親和性があるようだ。
そう感じた最大の理由は、奇術ショーに出演していた女性が殺されるという主軸の謎にある、わけではなく、小説内小説、鹿川舜平の『11枚のとらんぷ』の方にあるのだ。
この作中小説は、奇術の種明かしをすることをテーマにした掌編小説だ。
そんな奇術の内輪話とも言うべき作品だが、どの作品も本格推理の味わいがあって、非常に興味深く読むことができる。
手品の種明かしも、ミステリの謎解きも、基本のところは同じなのだろう。謎が提示され、その謎のトリックをいかに暴くか、という点に主眼が置かれている。その辺りが知的興味を刺激して、結構楽しい。
短くて切れがある点も、この作中作では大きな魅力だ。
この作品だけでも、本作は読む価値がある。
主筋の方も楽しく読める。
奇術に関しては門外漢なので、知らなかったことが多く、いろいろと興味を惹きつけられる点も良い。
奇術が、物理的なトリックだけでなく、心理的なトリックやら、思いこみやらを利用している辺りは、なるほどと思うことができて、おもしろかった。
ストーリーも非常に綿密に練られていて、感心することしきりだ。
伏線はびっくりするくらい巧妙に、しかし丁寧に張りめぐらされているし、動機などにいくらか疑問はあるものの、物語の流れにはしっかりとした説得力がある点はすばらしい。つうか上手い。
解説にも書いてあったが、まさに職人技のような優れた構造の本格推理小説である。見事な一品だ。
評価:★★★★(満点は★★★★★)
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