私的感想:本/映画

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山田風太郎『妖異金瓶梅』

2013-11-22 05:30:20 | 小説(国内ミステリ等)

性欲絶倫の豪商・西門慶は絶世の美女、潘金蓮を始めとする8人の妻妾を侍らせ、酒池肉林の日々を送っていた。彼の寵をめぐって女たちの激しい嫉妬が渦巻く中、第七夫人と第八夫人が両足を切断された無惨な屍体で発見される。混乱の中、西門慶の悪友でたいこもちの応伯爵だけは事件の真相を見抜くが、なぜか真犯人を告発せず…?美姫たちが織り成す凄惨淫靡な怪事件。中国四大奇書の一つを大胆に解釈した伝奇ミステリ。
出版社:角川書店(角川文庫)




『妖異金瓶梅』は一口で語りつくすのが難しい小説だ。

まずエログロ要素満載で目を見張るし、連載短篇ミステリーとしてもおもしろく、最後は愛の物語だったと気づかされ、思わず感動してしまう。
あらゆる味わいがごった煮のないまぜになっていて、感服するほかなかった。



漁色家の西門慶を主人公にした中国の古典『金瓶梅』を下敷きにしているし、何より山田風太郎ということもあり、エログロ要素は満載だ。
西門慶は多くの妻妾を同じ家に住まわせ、毎夜違う女の部屋に通っては快楽をむさぼっている。

そこで繰り広げられる痴態は猥雑でエロい。
SMに同性愛、スカトロに獣姦に異物挿入、最後の章では酒池肉林が展開されている。なんかこう書くとものすごい。
グロの方も人肉食があったり、スプラッタな場面もあったり、容赦がない。
そしてそれゆえにおもしろいのである。


そんなエログロの園で次々と事件が起きる。
それを西門慶の友人でたいこもちでもある応伯爵が探偵役を務め、事件の謎を探るというのが話のスタイルだ。
事件の趣向は多彩で、多少無理があるものもなくはないが、それはそれで楽しく読める。

だがこの作品は普通のミステリとは違うポイントがある。
それはすべての事件の犯人が同じだという点にあるのだ。
解説にならい、僕もその名は挙げないが、この人物のキャラが何よりも魅力的だった。

舞台が、何人も妾の住まう女の園ということもあり、そこには嫉妬の渦が巻き起こる。
犯人は主人である西門慶の家の中で常に一番でありたいと願い、ただそれだけのために殺人を重ねている。

その個性は強烈だ。
そこには野心があるのは言うまでもない。だがそこには同時にゆるぎのない愛もある。
その人物造形がすばらしい。


そしてその愛はラストに進むにつれ、どんどん前面に現れてくる。
名前は挙げないけれど、あの人もこの人も、その行動に出たのは、相手を愛していたがゆえであろう。
そしてその愛の中心には、常にこの作品の犯人がいるところがすばらしい。
その物語の構成に心を持って行かれてしまう。本当に恐ろしい女だ。

最後の応伯爵の叫びには、相手に対する深い愛がある。
だがその愛は、結局のところ、最後の最後まで届かなかった。
その愛の深さと報われない思いが、僕の心をゆさぶってならない。



山田風太郎は今回初めて読んだのだが、こんなにもすばらしい作家だとただただ驚くばかりである。
もっとこの作家の作品を読みたい。『妖異金瓶梅』は、そう思わせる快作であった。

評価:★★★★★(満点は★★★★★)


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