大人のための残酷な童話として書かれたといわれる六つの短篇と中篇「無垢なエレンディラと無情な祖母の信じがたい悲惨な物語」を収める。『百年の孤独』と『族長の秋』の大作にはさまれて生まれたこの短篇集は、奇想天外で時に哄笑をもさそう。
コロンビアのノーベル賞作家ガルシア=マルケスの異色の短編集。
鼓直・木村榮一 訳
出版社:筑摩書房(ちくま文庫)
この作品集ですばらしいのはそのイメージの豊富さだ。
空想と現実が混在したいかにもマジックリアリズムと言うべき、シュールな世界観はすばらしいの一語である。その幻想とも現実ともつかない雰囲気を描き上げるガルシア=マルケスの筆はともかく冴えている。
たとえば「失われた時の海」のイメージはどうだろう。海から発するバラの香りや、海底に向かうというラスト近い展開などは想像力としてはおもしろい。
また「奇跡の行商人、善人のブラカマン」の蛇の毒で体が倍以上にふくれるなどの文章もユーモラスで、にやりとしてしまう。
また笑いの要素があるのもこの作品集の特徴だ。
「大きな翼のある、ひどく年取った男」の悪ふざけとしか思えない天使の奇跡はくだらなすぎて笑ってしまうし、「愛の彼方の変わることなき死」の南京錠の部分などは最高におもしろく爆笑ものだ。
しかし物語そのものはさほど心に響いてこなかった。
表題の「無垢なエレンディラと無情な祖母の信じがたい悲惨の物語」はマジックリアリズムのふしぎさが好印象で、叙事性と土俗性の混在した雰囲気もユニークだが、いまひとつ乗り切れない部分があった。
『百年の孤独』を読んだときにも感じたが、僕はガルシア=マルケスとは合わないのかもしれない。こればかりは感性の違いとしか言いようがないのが残念だ。
評価:★★★(満点は★★★★★)
そのほかのガルシア=マルケス作品感想
『百年の孤独』
そのほかのノーベル文学賞受賞作家の作品感想
・1929年 トーマス・マン
『トニオ・クレエゲル』
『トニオ・クレーゲル ヴェニスに死す』
・1947年 アンドレ・ジッド
『田園交響楽』
・1949年 ウィリアム・フォークナー
『サンクチュアリ』
・1982年 ガブリエル・ガルシア=マルケス
『百年の孤独』
・1999年 ギュンター・グラス
『ブリキの太鼓』
・2003年 J・M・クッツェー
『恥辱』
『マイケル・K』
・2006年 オルハン・パムク
『わたしの名は紅』
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