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加速する地球温暖化を阻止するため、都市を超高層建造物アトラスへ移して地上を森林化する東京。しかし、そこに生まれたのは理想郷ではなかった!CO2を削減するために、世界は炭素経済へ移行。炭素を吸収削減することで利益を生み出すようになった。一方で、森林化により東京は難民が続出。政府に対する不満が噴き出していた。少年院から戻った反政府ゲリラの総統・北条國子は、格差社会の打破のために立ち上がった。
出版社:角川書店(角川文庫)
発想の鮮やかさは目を引くけれど、いまいちな作品。
それが個人的な、『シャングリ・ラ』の印象である。
一言でまとめるならば、物語に入り込めないのである。
物語は、超高層建造物アトラスという場所に都市機能を移して移住している富裕層と、CO2吸収のため森林化された地上に暮らしている下層民、といったように二極化が進んだ近未来の東京を舞台にしている。
その中でゲリラの親玉となった少女、國子が陰謀や策略に巻き込まれていく。
目を引くのは、その設定の鮮やかさと、事件のテンポの早さと、キャラクターが立っている点だろう。
おかげで読んでいて、物語をおもしろくしようという作者の意図がとってもよく伝わってくるのだ。
だけど、物語の速度を上げようとしているためか、描写がいろいろと薄く、雑な面も目立つ。
事件が起きたその後に、すぐまた別の事件が起きて、と飽きさせないけれど、読者として置いてきぼりにされている感じがして、もどかしい。
また人物の描写も、設定だけが語られているように感じて、上手く入り込めない人物もいる。
凪子の行動理由や、重要キャラのわりに背景がいまひとつぼやけている草薙や、結局両親が一度も登場しなかった香凛が僕としては物足りない。
またカリカチュアが極端すぎて、興醒めしてしまう人物もいた。
もっと腰をすえて描けばいいのに、と思う部分が結構多いように思う。
またご都合主義が目立つ点も少し気に入らない。
主要なキャラクターが、ピンポイントで現れすぎだろう、と思うシーンが、特に後半は目につき、話が進むにつれて、物語から心が離れていってしまう。
そうなったのもすべては、つめこみすぎという一点に尽きるのだろう。
それだけに読後はとっても残念な気持ちになったことは否定できない。
だが発想力というか、イマジネーションは非常に際立っている。
冒頭のスコールの場面といい、炭素経済という新しい経済概念といい、東京が森林化されているという設定といい、砲撃並みの強さで種を撒き散らすダイダロスといい、ゼウスやメデューサといったコンピュータといい、よくもこれだけのものを考えつくな、と感心する。
また設定はSFなのに、オカルト的な要素を持ち込もうという、ある意味正反対のものを融合させようという発想もおもしろい。
元々平安絵巻のような美邦の登場場面からして、奇妙だったのだけど、そこから神話的な要素を持ち込んでくるあたりは個性的で興味深い。
それに欠点はあれ、なんだかんだで、キャラクターの立っている点も一つの魅力なのだ。
やんちゃな小娘という感じの國子や、オカマで國子の母親でもあるモモコなど、良くも悪くもあくの強い人物たちがそろっている。
雑な展開が目立つわりに、最後まで読めたのは、彼らの存在感の力強さもあるのだろう。
個人の印象としては、点数は辛くせざるをえないけど、インパクトのある作品ということはまちがいない。
美点と欠点のないまぜになった、力作である。
評価:★★(満点は★★★★★)
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