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「パパがどんなふうに死んだか知る必要があるんだ」「なぜ?」「そしたらどんな死に方をしたか発明しなくてもよくなるから」9.11の物語。世界的ベストセラー待望の邦訳。
近藤隆文 訳
出版社:NHK出版
映画版が個人的に好みだったので、原作も手にとってみた。
映画の方では、父親を911で亡くした少年オスカーの話をメインに、父親との絡みをもう少し増やしていた気がする。
だが原作の方では、父親はあくまで後景であり、ひたすら少年の心の苦しみにアプローチしているように見えた。
そしてドレスデン爆撃を生き延びた少年の祖父母の人生も並行して語ることで、親しい人が亡くなるという事実を描き上げている。
この作品は語り口が特徴的だ。
オスカーの饒舌的な口語体や、祖母のスペースの空いた文章、祖父の心理を丹念につづった文章などは、いかにもクセが強い。
グラフィックに関する部分はおもしろいけれど、正直彼らの語る文体は肌に合わなかった。
相性と言われれば、それまでだけど、文章のクセの強さが気になり、物語に入りこめなかったきらいがある。
それが個人的には残念でならない。
と語りはともかくとしても、主人公のオスカー自体は非常におもしろい子どもと感じる。
基本的に理屈っぽいところがあって、アスペルガー症候群ではって思うほどに、エキセントリックで個性的だ。
父親の葬儀で運転手にジョークを飛ばすところなんかはその傾向が強い。
しかしオスカーの文章は、軽口をたたきながらも、どこか切羽詰まっているのだ。
エレベーターに乗るとパニクってしまうってところや、最悪な死に方について常に発明(想像)してしまうあたり、彼の心のもろさが透けて見えるかのようだ。
そしてそれこそ、父が死んだことに対するオスカーのショックの強さを表しているのだろう。
特に父親の死体が入っていない空っぽの棺桶に対する抵抗は、オスカーの割り切れなさを如実に伝えている。
その結果として、無理解もあったとは言え、母親を責めてしまう流れが悲しい。
だが愛する者を失うということはそういうことでもあるのかもしれない。
傷ついた人間が、傷ついている真っ只中にいるときは、自分のみならず他者をも無意識に傷つけてしまうこともある。
そしてそれはオスカーの祖父母だって変わらないのだ。
オスカーの祖父はドレスデン爆撃で愛する女アンナを失くす。
個人的にはオスカーの話より、祖父とアンナの恋物語と喪失の話の方がおもしろい。
それは彼の心理が失語症になる点も含めわかりやすいからだろう。そしてそこにある絶望に僕が共感しやすいからというのもある。
けれどその絶望の深さは、オスカーもオスカーの祖父も同じく深刻なのだ。
彼らには明らかに助けが要る。
そしてそんなとき、救いとなるのは結局のところ、人とのつながり、というシンプルなものでしかないのだろう。
オスカーが母に見守られていることに気づいたように、祖父母が再び暮らし始めたように、人は傷ついてしまうからこそ、何かと結びつかなければいけないのかもしれない。
結果的に個人的な趣味の作品ではなかったのだが、いろいろ印象に残る作品でもあった。
個性の良く出た、ユニークな作品である。
評価:★★(満点は★★★★★)
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