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芥川賞作家、阿部和重の長編小説。渋谷、スパイ私塾訓練生だった映写技師のオヌマはプルトニウムを巡る攻防に巻き込まれていく。
一人称というものは厄介だ。物語を語る人間が必ずしも真実を言っているとは限らないし、主観がバリバリ入っていて公正であるという保証だってこれっぽちも無い。三人称に見られる客観性が、一人称でも確保されていなければならないというルールはないのだ。
ミステリでよく見られる叙述トリックもその前提の元で書いている作品が多いわけだが、この作品も、ある意味叙述トリック的な作品と言えるかもしれない。
人称に対してかなり狙って書いているのが伝わってくる。
最初はプルトニウムとヤクザを巡る話と思って読み進めていくのだが、読んでいる内に「ぼく」の中で揺らぎが現れ、違う方向へとストーリーは進んでいく。そして何が正しく、何が間違っているのかもわからないまま物語は進み、最後でどんでん返しが待っている。なかなか練りこまれた作品だ。
解釈に対しては解説に書いてある通りで、間違いないのだろう。
だが、個人的にはオヌマですらMの妄想(というと少し違うかもしれないけど)が生んだ産物でしかないのではという気もする。つまりこの全体のレポート自体がMの個人的な欲求から生じた投影、仮託された物語なのではないか、という気がする。まあ誤読なのはわかっているのだけど。
とりあえずこの作品、面白いことは間違いない。だが人称による物語の揺らぎ等のせいで、どうにも捕らえにくいという印象もまた受けた。
評価:★★★★(満点は★★★★★)
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