私的感想:本/映画

映画や本の感想の個人的備忘録。ネタばれあり。

『工藤直子詩集』 工藤直子

2009-11-30 21:20:37 | NF・エッセイ・詩歌等

「だれかに あいたくて/なにかに あいたくて/生まれてきた――/そんな気がするのだけれど」――
ともだち、お父さん、ライオン、イルカ、ゴリラ、へびいちのすけ、すみれほのか、夕焼け、風……工藤さんはさんぽしたり、おひるねしたり、あみものしたりしながら、みんなと出会い、「し」をつくっています。
「てつがくのライオン」「あいたくて」「のはらうた」……から未刊詩までを含む、自選詩一〇九篇を収録した幸福な一冊。
出版社:角川春樹事務所(ハルキ文庫)



工藤直子の詩は、全体的にやわらかいという印象を受ける。

それはひらがなが多いからか、リズミカルだからか、童話風の詩が目立つからか、読んでいる情景が温かいからか、視点が優しいからかはわからない。
ただそのやわらかさが、読んでいて非常に心地よい気分にさせてくれるのだ。
うまくは言えないが、ともかくすてきだなと感じる詩が多い。


たとえば<Ⅲ のはらのみんな>に収められた詩の数々。
これは『のはらうた』という詩集に発表されたもので、のはらのみんながつくった詩を集めた、というメルヘンチックなコンセプトによりつくられている。

そのためか、この章の詩はとっても優しく、ちょっとユーモラスで、ときに切ない気分になれる作品が多い。
童話風の雰囲気もあり、読んで、非常に楽しい気分になることができる。

その中でも、かぜみつるの「し」なんかは個人的にはお気に入りだ。

『「し」をかくひ  かぜみつる』

ゆうべ
くりのきのとこ とおったら、さ
みのむしのやつ ないているのさ
こわいゆめ みたのだって
まだちいさいし、な
むりないよ

おれ あしたのぶんに とっておいた
そよかぜをだして ゆすってやった
みのむしのやつ わらってねむったぜ

あんまり かわいくて、さ
とうとう そよかぜ ぜんぶ
つかっちまって、さ
だから おれ きょう おやすみ
ひまだから「し」かいてるの

という「し」に深く感動してしまう。
ざっくばらんな口調で優しさを見せるところが特にいい。

むちゃくちゃ蛇足だが、みのむしせつこの詩を読むと、怖い夢を見て泣きそうなタイプだよな、と思わせられる。
『はきはき  みのむしせつこ』

ひとりで ブランコしていたら
とんぼが「あそぼう」と
とんできました
わたしは「はい」というかわりに
かくれてしまいました

そのよる ねどこのなかで
へんじの れんしゅうをしました
「はい!あそびましょ
 はい!あそびましょ
 はい!あそびましょ」

あしたは
はきはき へんじできますように
あしたも
だれかが あそびきますように

そりゃ、かぜみつるに限らず、泣いていても「むりないよ」と思える。
そういう世界観のつながりもおもしろい。

ほかにも、かまきりりゅうじや、からすえいぞう、くりのみしょうへい、つくしてるお、なんかの詩は男の子だな、って感じが出ていて良い。その言葉や感性には笑ってしまう。
こりすすみえや、にじひめこ、の詩は女の子らしくてかわいらしい。
きりかぶさくぞうや、けやきだいさくなどは、じいさんらしく、どっしりしている感がおもしろい。


もちろん、『のはらうた』以外の詩もすばらしい。どれも心に響くものばかりだ。

<Ⅵ こころいろいろ>の章が特にいい詩がそろっていると思った。
代表作の『あいたくて』をはじめ、心に訴えるものばかり。
『痛い』『ほんとう』『ひとつきりの心』『見る』『帰る』なんか、さながら恋愛詩のようで切なくもある。

その流れで言えば、個人的には『こころ』がお気に入りだ。
『こころ』

「こころが くだける」というのは
たとえばなしだと思っていた ゆうべまで
今朝 こころはくだけていた ほんとうに

ひとつひとつ かけらをひろう
涙がでるのは
かけらに日が射して まぶしいから

くだけても これはわたしの こころ
ていねいに ひろう

この詩が悲しげですばらしい。
苦しみと、痛みを受け入れようっていう感じの姿勢が特に胸に響いた。


上で触れた以外でも、『今日』『みえる』『日暮れ』『めがさめた』『ひぐらし的朝』『ライオン』『ゴリラ日記』『にんぎょう』『いるかのてがみ』『一粒』『なぜ?』『ふるえておくれ』『花』『葬式』などが気に入っている。

どの詩を読んでも、光るものがはっきりと感じ取れる。
工藤直子は本当にすばらしい詩人だと、教えてくれる一品だ。

評価:★★★★★(満点は★★★★★)

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