16歳のフィギュアスケーター桜野タズサはその美貌と高飛車な物言いからスポーツ界の嫌われ者。国際大会でどうしても結果が出せない彼女にある日突然、幽霊が取り憑いた。
第2回スーパーダッシュ小説新人賞、大賞受賞作。
とりあえず最初はイライラしっぱなしであった。
主人公に幽霊が取り憑くというベタな展開からストーリーははじまるのだけど、この二人のやりとりがどうしても肌に合わなかった。どうもムダに引っ張りすぎというか、読んでいてムダに痛々しいというか、とにかく僕の趣味に合わない。
それになぜ幽霊がカナダ人なのか、そもそも幽霊が取り憑く必然性があるのか、そういった点に違和感もあり、その理由も見えず、腹立たしく感じられてならなかった。
だがそんな展開もフィギュアのシーンがはじまってからはだいぶおもしろくなってくる。そのシーンに漂っている緊張感と、純粋なまでの闘争心、そして向上心といったいわゆるスポ根がもっている要素が存分に注ぎ込まれて非常に楽しい。そこにある意気込みと内面に巻き起こる葛藤の具合が、読んでいて引きこまれるものがあった。
特にオリンピック代表を掛けたフィギュアとオリンピックののシーンは格別である。決して緊迫感が途切れることはなく、迫力が維持されていく様は圧巻だ。
キャラの作りと物語の構成もうまい。
特に主人公の気の強さを、メディアとの対決なども絡めて、描く構成には主人公のアクの強さとエンタメとしてのおもしろさが融合していて鮮やかなくらいだ。そして最初の内はまったく必然性がわからなかったピートの存在が明確に際立ってくる様はすばらしい。
ラストに泣きを入れるのはあざといけれど、必要な展開だしちょっと感動してしまったので素直に認めるほかはないだろう。
結局最後までカナダ人である必然性はわからないし、彼の感覚がものすごく日本人チックだったのが謎で、そこだけが不満だ。
しかしここまで昂揚感を抱かせる作品にもそうそうお目にかかれるものではない。すばらしい作品を読むことができたという思いで一杯だ。
評価:★★★★(満点は★★★★★)
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