私的感想:本/映画

映画や本の感想の個人的備忘録。ネタばれあり。

『改訂版 雨月物語 現代語訳付き』 上田秋成

2007-11-26 21:03:15 | 小説(国内男性作家)

崇徳院の眠る白峯の陵に訪れた西行法師の前に崇徳院の亡霊が現れて平家の滅亡を予言する「白峯」をはじめ9編を収録。
和漢の古典を元に幻想的な世界を描いた上田秋成の怪異小説。
鵜月洋 訳注
出版社:角川書店(角川ソフィア文庫)


単純に物語として見るなら、際立っておもしろいわけでもない。どの作品も古典ということもあってパターンはわかっているし、手垢が付いているため新味という点では乏しい。心理描写も物足りないものがある。
文体はというと、原文は確かにリズムが感じられるし現代語訳より楽しんで読めるが、それ以上ではない。
もちろん先達の偉業には敬意を表するものの、『海辺のカフカ』に出てきたからという理由で手にした、ミーハーな工学部出身者の僕では、この作品のすばらしさを完璧に理解することはできなかった。

それでもこの作品で良いと感じた点もないわけではない。
そのひとつは物語の雰囲気だ。おどろおどろしい雰囲気をはじめ、場の空気のつくり方が上手く、味わいがあったと思う。
たとえば「吉備津の釜」の「男の髪の髻ばかりかかりて、外には露ばかりのものもなし」という描写はこわいし、「青頭巾」の「忽ち氷の朝日にあふがごとくきえうせて、かの青頭巾と骨のみぞ草葉にとどまりける」という部分は幻想味がある。

物語としては、日本人的な行動理由が物語のそこここに流れていて、読んでみてはっとするものもある。
たとえば「菊花の約」では友との約束を果たすために、死を選び亡霊となっている(左門が泣くシーンなどは少し感動的だ)。「蛇性の婬」では蛇につけ狙われた夫がみんなの迷惑もあって自己犠牲の死も考える。特にそういう点は日本人的でおもしろい。

また解説にも触れられていたが、登場人物が純粋に何かを追い求める姿も印象に残る。
「白峯」も「菊花の約」もそのほかの作品も、登場人物は何かを一途に望んでいて直情的だ。そこに封建制によって建前で生きざるをえなかったものの心情を読み取るのも発想としてはおもしろいだろう。

物語として見るなら、さほど、と言ったところだが、とらえようによってはおもしろい面もある。そんなところだろうか。

評価:★★(満点は★★★★★)


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