私的感想:本/映画

映画や本の感想の個人的備忘録。ネタばれあり。

『少女地獄』 夢野久作

2010-05-25 20:55:52 | 小説(国内男性作家)

可憐なる美少女”姫草ユリ子”は、すべての患者、いな接触するすべての人間に好意を抱かせる、天才的な看護婦だった。その秘密は、彼女の病的な虚言癖にあった。一つのウソを支えるために、もう一つの新しいウソをつく。無限に増幅されたウソの果ては、もう、虚構世界を完成されるための自殺しかない。そして、その遺言状もまた……。
<夢幻>の世界を華やかに再現する夢野久作。書簡体形式で書いた表題作ほか、男女の宿命的断層を妖麗に描いた「女抗主」「童貞」を収めた傑作集。
出版社:角川書店(角川文庫)



『少女地獄』は3つの短篇から成る作品だ。
そのことを知らずに読んだので、残りページは大量にあるのに、何でもうすぐ終わりそうなのだろう、と戸惑いながら読んでいた。
そのせいで集中して読みきれなかったきらいがある。無知というのはある意味、罪だ。
それでも物語は自体はおもしろいので、集中力が途切れても、それなりに楽しんで読むことができる。


『少女地獄』でもっとも有名なのは、冒頭の『何んでも無い』だろう。

主人公のユリ子は、自分を可憐に見せるために嘘に嘘を重ねていく。
その状況は滑稽と見えなくもないが、ある意味ではむちゃくちゃ悲しい。
特に彼女が嘘を嘘と気づかせないために、必死になっている点は愚かしいながらも、読んでいて切なくなる。彼女の行動ははっきり言って、病気だ。

しかしその嘘のゆえか、彼女は誰からも憎まれていない。
多分、嘘を重ねなくても、彼女はみんなから愛されていたのだろう。
そう考えると、彼女の自縄自縛的な行動は、皮肉に満ちている。


そのほかの作品も普通に楽しめる。
『殺人リレー』は、愛に盲目な妾の心理があまりに悲しく印象的だ。
『火星の女』はミステリアスなタッチで結構おもしろいし、いくらか屈折している彼女の心理に僕は惹かれてしまう。

『少女地獄』以外にも、女に対する幻想と失望を、感情をこめず描いている点が心に残る、『童貞』。
耽美と狂気が入り混じった雰囲気が良い、『けむりを吐かぬ煙突』などなど、目を引く作品が多い。


個性的な雰囲気が目を引く作品ばかりである。作家の特質が存分に出た作品集だ。

評価:★★★★(満点は★★★★★)



そのほかの夢野久作作品感想
 『瓶詰の地獄』

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