私的感想:本/映画

映画や本の感想の個人的備忘録。ネタばれあり。

「灼熱の魂」

2012-03-07 20:55:16 | 映画(さ行)

2010年度作品。カナダ=フランス映画。
自らのルーツを語る事はおろか我が子にすら心を開く事もなく急逝した中東系カナダ人女性ナワル・マルワン。故郷を追われた若き日の誓いを知る者は誰もいない。双子のジャンヌとシモンに母ナワルが託した2通の手紙。宛先は死んだはずの父と存在すら知らなかった兄。彼らを捜し出して手紙を渡す事が姉弟への遺言だった。母の真意を計りかね戸惑うシモンを残し、ジャンヌはひとり母の祖国へ旅立つ。灼熱の魂 - goo 映画
監督はドゥニ・ヴィルヌーヴ。
出演はルブナ・アザバル、メリッサ・デゾルモー=プーランら。




「圧倒的な映像で描く至高のミステリー、魂が震える究極のエンタテイメント」と宣伝文句にあるけれど、確かにミステリアスでドラマチックな展開に富んだ作品である。
単純におもしろいし、それでいて、何かと考えさせられる部分もあった。


内容としては死んだ母の遺言に従い、双子の姉弟が中東で育った母の過去を探るという展開である。映画のスタイルとしては、過去と現在を交互に描くという形だ。

この母親の人生が非常にドラマチックなのである。
恋人が殺されたり、息子と離れ離れになったり、家族から逃れても、その後の内戦で苛酷な運命を背負ったりと、とにかくいろんなことが起きる。
しかしそれゆえに先が読めず、この先彼女はどうなるんだろう、と、終始興味を引かれっぱなしで、何度もワクワクした。


だけどここまで彼女の人生が劇的なのは、それだけ彼女の住まっていた土地が苛酷だからってのもあるのだろう。
特定されてはいないが、中東の国に生まれた彼女は厳しい環境に囲まれている。
そこでは宗教的な対立が起きており、ちがう宗教という理由だけで、人は平気で敵と味方を区別し殺すこともいとわない。

もちろん、これはフィクションであるけれど、そういう現実はこの世界にまちがいなく存在するのだろう。そう考えると、何とも気が滅入ってしまう。
バスのシーンなんかは見ていて愕然としてしまった。
人間は本当に醜い、とそういう場面を見ると思ってしまう。


そうして苛酷な人生を背負った彼女に、最後さらなる大きな展開が訪れる。
ある意味、それが本作最大の悲劇とも言えるだろう。

とは言え正直に告白すると、その劇的な、というかギリシャ悲劇的な展開は、やりすぎだ、と感じた。
確かにそこからは人間の運命が生んだ悲劇、というか、原罪めいたものは感じられる。
だけどちょっとつくりすぎな気もしなくはない。インパクトは大だったけれど、僕はそのシーンを見て、引いてしまった。
それまでが良かっただけに、文字通り興醒めである。


しかし最後までひたすら楽しませようと、物語をつくりあげたことはすばらしい、と思う。
物語的な盛り上がりが多く、何かと考えさせられる要素にも富む、そんな優れたエンタテイメントであった。

評価:★★★★(満点は★★★★★)



出演者の関連作品感想
・ルブナ・アザバル出演作
 「パラダイス・ナウ」

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