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四十の賀を盛大に祝った源氏に兄である朱雀院の愛娘・女三の宮が降嫁し、絢爛を誇った六条の院に思わぬ波乱が生じはじめる。愛情の揺らぎを感じた紫の上は苦悩の末に倒れ、柏木は垣間見た女三の宮に恋慕を募らせるがその密通は源氏の知るところとなり…。
瀬戸内寂聴 訳
出版社:講談社(講談社文庫)
「若菜」の帖を誉める人は多いらしい。
確かに「若菜」では女三の宮の降嫁、それに伴う紫の上の苦悩、柏木と女三の宮の密通、不義の子の妊娠とドラマチックな要素はたくさんある。
しかし何でだろう。僕はそこまで「若菜」を含む光源氏の後半生の物語を、前半生や宇治十帖ほど楽しむことができなかった。
これは趣味の問題なのだろうか。読んだときの環境がよくなかったのだろうか。
だがつまらないというわけでは決してないのだ。
何よりドラマチックな要素が多いので、それなりではあるけれどおもしろい、と思うし、登場人物の心理が重きに沈んでいくところもよい。
特に紫の上の苦悩の描写はすばらしい。
彼女はこれまで光源氏が浮気をするたびに嫉妬してきたが、女三の宮に関しては、相手が院の娘ということで嫉妬することもできず、悩むこととなる。
しかも残酷なことに、お嬢様ゆえに女三の宮は、そんな紫の上の心情を忖度して気を回したりすることがない。紫の上はそんな苦悩から逃れるため、出家を望むけれど、光源氏は決して許そうとしない。
そのため、彼女の苦悩はどんどんと増していく結果となってしまう。
この状況設定と人物の造形、配置は絶妙だろう。
個人的にはメインの話ではないけれど、「夕霧」がおもしろかった。
夕霧は、幼いときからはぐくんできた雲居の雁との恋を成就させて、ついに結婚に至った。
だが、芸術を理解せず、どんどん所帯じみてきている雲居の雁との長い結婚生活に、ちょっと倦んできている。
その結果、あんなにマジメだった夕霧は浮気に走ってしまう。
個人的には、浮気相手の母親から送られた手紙を、嫁である雲居の雁に奪われるシーンがおもしろかった。つうか笑ってしまった。
そこでの夕霧は自分の浮気を決して認めようとしない。あくまですっとぼけるが、それがいかにも白々しいし、言い訳がましい。
本当に男ってやつはダメだよな、とこういう場面を読むとつくづく思ってしまう。
この場面は、五島美術館にある、源氏物語絵巻の夕霧の絵でもある。
あの絵を最初に見たときは、男女の微笑ましい姿を描いたものなのかな、と勝手に思っていた。実はこんなにも情けないエピソードを描いたものとは思いもしなかった。
おかげで絵の見方が大きく変わる。そういう新しい発見ができた点も個人的には良かった。
中だるみしてるな、と思ったし、第一部や第三部と比較すると、いくらか落ちる、と個人的にはだが、思う。
だけど、良い面も多々見られ、それなりにおもしろく仕上がっていることは確かだ。佳品といったところである。
評価:★★★★(満点は★★★★★)
そのほかの『源氏物語』の感想
『源氏物語 巻一~巻五(桐壺~藤裏葉)』
『源氏物語 巻八~巻十(竹河~夢浮橋)』
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