広大な敷地を所有するデスパード家の当主が急死。その夜、当主の寝室で目撃されたのは古風な衣装をまとった婦人の姿だった。その婦人は壁を通り抜けて消えてしまう……伯父の死に毒殺の疑いを持ったマークは、友人の手を借りて埋葬された遺体の発掘を試みる。だが、密閉された地下の霊廟から遺体は跡形もなく消え失せていたのだ! 消える人影、死体消失、毒殺魔の伝説。不気味な雰囲気を孕んで展開するミステリの一級品
加賀山卓朗 訳
出版社:早川書房(ハヤカワ・ミステリ文庫)
『火刑法廷』は見事な作品である。
幽霊話に死体消失といったセンセーショナルな道具立てや、それを解決していく巧みなトリック、そして理詰めでの解決篇や、二転三転するストーリー展開など、どれをとってもすばらしい。
だがこの作品が本当に見事なのは、すべてラストの章にあると断言していいだろう。
だがそれを語る前にストーリーから話したい。
急死した富豪の伯父に毒殺の疑いがかかり、それを解決する甥とその友人たち。遺体を調べようという話になり、地下の霊廟に踏み入ると、そこから死体が消失していた、というのがメインの流れだ。
センセーショナルな要素を随所に盛り込んでいて、ぐいと興味を引き寄せているのが良い。
特に一番最初の、小説の写真は、読者をさっと物語に引き込むような、すばらしい道具立てだと思う。
しかもそれら派手な部分を、企画倒れに終わらせるのではなく、丁寧に回収して行く様も堂に入っている。
二転三転と物語を盛り上げながら、決してプロットを破綻させることなく、しかも巧妙に語りつくしていく。巧みと言うほかない、上質な構成である。
ショッキングであり、トリックも考え込まれていて、しかも目を引くつくりになっている。
ミステリとしては一級の部類に入るだろう。
だが先述したように、この作品の良さは、そんなミステリを超えたラストの章にあるのだ。
ラストの章を読んだとき、僕は本当に寒気を覚えてしまった。
多く語ることの難しい内容なのだが、そこからは人間の冷たい悪意と、深い業のようなものがうかがえ、空恐ろしくなってしまう。
人の命を平気で軽んじて、しかも何食わぬ顔で、この後も生活を続けていく。
そんな予感がうかがえて、慄然とするほかなかった。
作中にはいくつもショッキングな展開が待ち受けていたが、たぶんこの章こそ、本作最大の衝撃と断じていいだろう。
『火刑法廷』は、ミステリとしてまちがいなくハイレベルの作品である。
そして同時に、人間の恐ろしさを描ききった、ミステリというジャンルにとどまらない作品でもある、と思った次第だ。
評価:★★★★★(満点は★★★★★)
そのほかのジョン・ディクスン・カー作品感想
『三つの棺』
最近読書習慣を目指しています!!
何から読み始めたらよいかわからないので、感想や簡単なあらすじを参考にさせていただいています!
それとプロフィール画像のウサギの銅像の写真、近所の美術館のものと同じなので興味があったのでコメントしてみました!
これからもレビュー楽しみにしてます☆
適当にやっているだけですが、何かの参考になったのなら、ありがたいことです。
郡山の近所なんですね。いい展覧会がやっているとき、たまに行きますよ。この彫刻家の作品はわりに好きで、特に郡山美術館のやつが一番ステキだと思うので使用してみました。