パリで私生児として生まれ、泥棒、男娼を続けながら各地を遍歴。その後、作家として世に認められたジャン・ジュネ。
『泥棒日記』は彼の自伝的作品である。
本書の文章は極めて読みにくい。抽象的な言辞が羅列されている上に、装飾的な言葉も多く、かなり集中して読まないと、文章の意味が頭の中に入ってこないのだ。よく言えばこういうのを詩的な文章と言うのだろう。
実際、そこにある言語表現の中には僕レベルではパッと思い浮かばないような独特なものもある。
でも、そういった文章にかなりイライラしてしまったのも否定できない。
例えば、スティリターノの服にペンチがぶら下がっているのを見て、彼は物品さえも惹き付けるって思うシーンや、アルマンの慈愛は折れた汽車も繋ぎ合わせるって感じるシーンを読んだ瞬間、僕はイラッときてしまった。「んなわきゃねえだろう、なんじゃそりゃ」とそういう厄介な比喩を読むと、僕は思ってしまうのである。
本来、こういう表現は笑って受け入れるものなのだろう。
岡野宏文と豊崎由美の対談(タイミングの良いことに今月号の「ダ・ヴィンチ」に本書が取り上げられていた)にも本書は笑えるとも書いてあったが、きっとこういったシーンも笑いの対象になるのだと思う。
でも読みづらい文章にかなりイラついていた僕に、それを笑って受け入れるだけの心の余裕はなかった。
もちろんこの本にも良い点はある。
悪を一つの美としてとらえる独特の価値観、孤児として生まれたゆえの社会から疎外された者の感性、それに男色者としての視点等々、一般的感覚とは異なる世界観の描写がそれにあたる。
でもそういった感性が優れていたとしてもそれを伝える文章が僕の好みには合わないのではどうにもならない。
そういうわけで僕はこの本を楽しんで読むことはできなかった。残念なことである。
評価:★★(満点は★★★★★)