私的感想:本/映画

映画や本の感想の個人的備忘録。ネタばれあり。

『月が昇るとき』 グラディス・ミッチェル

2007-03-08 19:42:59 | 小説(海外ミステリ等)


サーカス開幕前夜、サイモンとキースのふたりの兄弟は運河の橋であやしい人影を目撃、その翌日女綱渡り師が殺される。それから町では連続殺人が発生。ふたりは犯人を追うことになる。
オフビートな探偵小説を手がけてきたイギリスの作家、グラディス・ミッチェルの作品。
好野理恵 訳
出版社:晶文社


ふたりの少年がたまたま殺人犯と思しき人物を目撃、その犯人を追うという話だ。少年という設定もあってか、どこか淡々としたテンポと進んでいく。
ややまだるっこしい面もあったが、オフビート作家と称される著者の味わいだけは感じ取ることができたし、この少年小説風の世界に、そのテンポは合っているのは否定できないだろう。

だが正直言って、僕はそれほどこの小説の世界観には惹かれなかった。
もちろんおもしろく読むことができたし、クリスティーナに対する感情や、家族に対する視点など、見るべきものはある。兄弟を描く雰囲気も悪くはない。しかしそれを魅力とまでとらえることは僕にはできなかった。単純に感性の問題である。

ミステリの観点としては2/3付近で、あからさまに犯人がだれかがわかってしまうシーンがある。しかしいくつかのミス・ディレクションにまぎれて最後まで楽しく読めるのがいい。ストーリーだけ見るなら単純におもしろい。
そしてなによりラストが目を引くのだ。鍋の中の描写などは、直接には書かないけれど、想像力を刺激するように描かれていて、ぞわっと来るものがある。このシーンは実にすばらしかった。
その後の対決の様子もいいし、なにより個人的にはラストで「逃げて」と言葉を言わせている点が目を引いた。その言葉の中に、僕は少年小説の味と残酷があるように思った。

扱っている題材のわりに全般的に地味な雰囲気のする小説だが、この作品なりの味がある。たぶんはまる人にははまるだろう。

評価:★★★(満点は★★★★★)

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 「ボビー」 | トップ | 「パフューム ある人殺しの物... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

小説(海外ミステリ等)」カテゴリの最新記事