サーカス開幕前夜、サイモンとキースのふたりの兄弟は運河の橋であやしい人影を目撃、その翌日女綱渡り師が殺される。それから町では連続殺人が発生。ふたりは犯人を追うことになる。
オフビートな探偵小説を手がけてきたイギリスの作家、グラディス・ミッチェルの作品。
好野理恵 訳
出版社:晶文社
ふたりの少年がたまたま殺人犯と思しき人物を目撃、その犯人を追うという話だ。少年という設定もあってか、どこか淡々としたテンポと進んでいく。
ややまだるっこしい面もあったが、オフビート作家と称される著者の味わいだけは感じ取ることができたし、この少年小説風の世界に、そのテンポは合っているのは否定できないだろう。
だが正直言って、僕はそれほどこの小説の世界観には惹かれなかった。
もちろんおもしろく読むことができたし、クリスティーナに対する感情や、家族に対する視点など、見るべきものはある。兄弟を描く雰囲気も悪くはない。しかしそれを魅力とまでとらえることは僕にはできなかった。単純に感性の問題である。
ミステリの観点としては2/3付近で、あからさまに犯人がだれかがわかってしまうシーンがある。しかしいくつかのミス・ディレクションにまぎれて最後まで楽しく読めるのがいい。ストーリーだけ見るなら単純におもしろい。
そしてなによりラストが目を引くのだ。鍋の中の描写などは、直接には書かないけれど、想像力を刺激するように描かれていて、ぞわっと来るものがある。このシーンは実にすばらしかった。
その後の対決の様子もいいし、なにより個人的にはラストで「逃げて」と言葉を言わせている点が目を引いた。その言葉の中に、僕は少年小説の味と残酷があるように思った。
扱っている題材のわりに全般的に地味な雰囲気のする小説だが、この作品なりの味がある。たぶんはまる人にははまるだろう。
評価:★★★(満点は★★★★★)
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