私的感想:本/映画

映画や本の感想の個人的備忘録。ネタばれあり。

新渡戸稲造『現代語訳 武士道』

2013-10-12 06:17:03 | 本(人文系)

日本人は、宗教なしに道徳をどう学ぶのか―こうした外国人の疑問を受け英文で書かれた本書は、世界的ベストセラーとなった。私たちの道徳観を支えている「武士道」の源泉を、神道、仏教、儒教のなかに探り、欧米思想との比較によってそれが普遍性をもつ思想であることを鮮やかに示す。「武士道」の本質をなす義、仁、礼、信、名誉などの美徳は、日本人の心から永久に失われてしまったのか?日本文化論の嚆矢たる一冊を、第一人者による清新かつ平明な現代語訳と解説で甦らせる。
山本博文 訳
出版社:筑摩書房(ちくま新書)




『武士道』は、外国人に日本人の考え方や立場を紹介するため書かれた本であるらしい。
実際、読んでいると外国の古典などと比較しつつ、武士道を紹介している部分は多い。

解説にもある通り、その中には、幾分強引なものもある。
けれど、そういった部分を読んでいると、著者の新渡戸の思いというものが見えてくるような気がするのだ。
それは日本人の特殊な考えを、世界にどうにかして理解させたいという新渡戸の強烈なまでの意思である。

内容云々や、引用の正確さはともかく、その辺りにまず僕は心うたれた。


本書は、義、勇気、仁、礼など、武士道を成立させる要素を一つ一つ解説している。
日本人なら、ああそうだろうな、と感じるものが多く、それが言葉にされているという印象を受けた。

個人的におもしろいと思ったのは、人にものを贈るときの、つまらないものですが、という言葉の解説だ。
アメリカ人なら、良いものは良いと言い、贈る品物を誉めるが、日本人はあなたはいい人で、どんな品物もあなたには十分ふさわしくない、という気持ちから述べるのだと解説する。
その解釈が合っているとは思わないけれど、その発想と視点はユニークで感心した。


しかし武士道を成り立たせるのは、基本的には名誉の概念(正確には解説にもあるように、恥の感覚)なのだな、と読むと感じる。
「劣等国と見下されることを容認できない名誉の感覚」が明治維新を成立させたという意見は、是非はともかく、指摘としてもおもしろい。

だがこういった恥の感覚は、世間を気にする現代日本にも通じるものがある。
すなわちそれが日本人の共通意識でもあるのだろう。
そういう点、訳者も述べるように、『武士道』は武士道の解説書でありながら、日本文化論としての側面も見せているようだ。


さてその武士道だが、新渡戸がこの作品を書いた十九世紀末の時点ではすでに消えかけていたらしい。
デモクラシーなどの新しい思想が入って来るにつれ、むかしの思想も古びていく。
これはいつの時代でもありうることだ。

だが日本という国で培われた文化的な精神は、新しい概念が導入されたとしても、簡単には消えるものではない。
そう訴える最後の方の文章は静かに胸に響く。


百年以上前の著作のため、現代においては古びている面もある。
だが日本人の考え方を再確認できるという意味合いでは、価値ある古典と感じた次第だ。

評価:★★★(満点は★★★★★)

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