極楽鳥が舞い、ヤシやパイナップルが生い繁る、南国の離れ小島。だが、海難事故により流れ着いた可愛らしい二人の兄妹が、この楽園で、世にも戦慄すべき地獄に出会ったことは誰が想像したであろう。それは、今となっては、彼らが海に流した三つの瓶に納められていたこの紙片からしかうかがい知ることは出来ない……(「瓶詰めの地獄」)。
読者を幻魔鏡へと誘う夢野久作の世界。「死後の恋」など表題作6編を収録。
出版社:角川書店(角川文庫)
本書の表題作「瓶詰の地獄」の存在感は圧倒的である。
十数ページ足らずの短い作品なのだが、そこに込められた世界観は、非常に豊かだ。
兄妹の罪の感覚に怯える思いと、衝動のままに動きたいという感覚の相克が非常に印象的。
またエロティックな雰囲気や、心理小説のような文章から浮かび上がってくる狂気じみた雰囲気もすばらしい。
その鬼気迫る切羽詰った文章が、何とも言えない迫力を生み出している。
短い作品ではあるが、この強いインパクトが一読忘れがたいものがあった。
ほかにも良い作品が多いのだが、個人的には「支那米の袋」と「鉄槌」が好きだ。
「支那米の袋」は冒頭の女の言葉からドキッとさせられるし、それ以降の展開にも心を惹きつけられる。
個人的にもっとも良かったのは、袋の中に詰められてからの描写だ。
その描写からは、何も見えないことから生れる恐怖心、そして言い知れぬ不気味さが感じ取れ、心に残る。
「鉄槌」の方は、単純に物語としておもしろい。
妖婦めいた伊那子や、山師風の叔父、そして「私」の各人の思惑が生み出す人間ドラマがなかなか読み応えがある。
そのほかにも、「一足お先に」や「冗談に殺す」など、独特の味わいのある作品が多い。
夢野久作は「ドグラ・マグラ」しか読んだことはなかったが、そのほかにも優れた作品を書いていたようだ。その強烈な個性を見せつけられた次第だ。
評価:★★★★(満点は★★★★★)
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