普通に暮らしていたら家族や隣人に通報され警察が病院へ……
それを機に仕事を失い、再就職が困難になった4人が激白!
精神科の強制入院は大きく分けて2つある。「自傷他害の恐れのある人」を対象にした措置入院、そして前述の症状はないが本人同意が得られない場合、保護者などが申し出られる医療保護入院だ。しかし、治療が必要な場合に限らず「いたって健康な人々がある日突然、精神科病院に連れていかれ、入院させられてしまった」という証言が集まってきた。信じがたいその事例を追ってみた
閉鎖病棟の数世界一!ベッド数を確保しないと採算が取れない不思議
普段と変わらぬ生活を送っていたら、突然有無を言わさず強制入院させられる……そんな悪夢のような出来事が実際に起きている。「病状を判断するのはあくまで医師」というのが一般的な解釈だが、それだけでは説明のつかないケースが多く存在するのだ。被害に遭った人々は、退院後も差別や偏見、投薬の後遺症などで社会復帰が難しく、まさに踏んだり蹴ったりの状況である。
取材を進めていくと、日本の精神医療の実態に関する驚くべきデータにぶちあたった。病院勤務医師一人あたりと人口一万人あたりの病床数(A、B)がなんと世界一。この狭い島国で、入院しなければいけないような人がそんなに多いというのか……?
「ほとんどの精神科病院では、ベッド数を確保し、少しでも多くの人が長く入院しないと採算が取れないのです」と語るのは、地域精神医療の実現に長年取り組んできたA医師。精神科の医師数は一般医療の3分の1でもよいとされた「精神科特例」が撤廃された現在もその慣習が残っており慢性的な医師と看護師不足。緻密な医療が困難なため、一般病棟に比べ在院日数が多く(C)、強制入院である措置入院と医療保護入院に適用される閉鎖病棟が多くなる(D)。
「精神障害者の地域医療と地域ケアシステムが整わない限り、病床数は減らないでしょう」(A氏)
しかも、保険点数が最も高い精神科救急入院病棟は「措置入院、緊急措置入院、医療保護入院、応急入院、鑑定入院または医療観察法入院」を多くしなければならないため、「その病棟を有する病院としては、軽い表病状の人でも強制入院させたいという誘惑にかられることはあります」(同)。つまり、本来入院を必要としない人が入れられる場合もあるというのだ。
また精神保健福祉法の第23条には「精神障害者またはその疑いのある者を知った者は、誰でもその者について指定医の診察および必要な保護を都道府県知事に申請することができる」とある。また、通報もしくは「その他周囲の事情」から判断した警察官には通報義務もある。すなわち誰かに「異常」と思われ精神科病院に連れていかれると、入院させられてしまう余地があるということか……?
「強制入院の妥当性を判断する第三者機関が十分機能していない」(同)というだけに、事態は深刻だ。小誌では、そのような異常な経緯で強制入院をさせられ、運よく退院できた人々を直撃した。
医師 A氏
精神障害者に対する地域ケアシステム集実集充実のため、長年尽力している。特に精神障害者の長期入院についてさまざまな問題提起をする
A 精神科病院の諸外国との比較 Atlas country profiles on mental health resources, WHO, 2001
人口10万人対医師数
日本8.0 アメリカ10.5 イギリス11.0 イタリア9.0 カナダ12.0 ドイツ7.3 フランス20.0
医師一人当たり病床数
日本35.5 アメリカ9.0 イギリス5.3 イタリア1.9 カナダ16.1 ドイツ10.4 フランス6.0
B 人口1万人対精神病床数 OECD Health Date2007
日本28 イギリス7 フランス10 イタリア1 スウェーデン5 アメリカ3 カナダ3 韓国8
C 一般病床と精神病床の比較 2006年医療施設調査・報告
国・公的病床の割合
一般病床22.8% 精神病床9.6%
平均在院日数
一般病床19.2日 精神病床320.3日
D 入院形態と入院病棟 厚労省2006年6月30日調査
措置入院
夜間外開放3% 終日閉鎖91% 上記以外6%(目分量)
医療保護入院
夜間外開放15% 終日閉鎖77% 上記以外10%(?、目分量)
任意入院
夜間外開放46% 終日閉鎖42% 上記以外25%(?、目分量)
SPA!週刊スパ2008年6月3日号
それを機に仕事を失い、再就職が困難になった4人が激白!
精神科の強制入院は大きく分けて2つある。「自傷他害の恐れのある人」を対象にした措置入院、そして前述の症状はないが本人同意が得られない場合、保護者などが申し出られる医療保護入院だ。しかし、治療が必要な場合に限らず「いたって健康な人々がある日突然、精神科病院に連れていかれ、入院させられてしまった」という証言が集まってきた。信じがたいその事例を追ってみた
閉鎖病棟の数世界一!ベッド数を確保しないと採算が取れない不思議
普段と変わらぬ生活を送っていたら、突然有無を言わさず強制入院させられる……そんな悪夢のような出来事が実際に起きている。「病状を判断するのはあくまで医師」というのが一般的な解釈だが、それだけでは説明のつかないケースが多く存在するのだ。被害に遭った人々は、退院後も差別や偏見、投薬の後遺症などで社会復帰が難しく、まさに踏んだり蹴ったりの状況である。
取材を進めていくと、日本の精神医療の実態に関する驚くべきデータにぶちあたった。病院勤務医師一人あたりと人口一万人あたりの病床数(A、B)がなんと世界一。この狭い島国で、入院しなければいけないような人がそんなに多いというのか……?
「ほとんどの精神科病院では、ベッド数を確保し、少しでも多くの人が長く入院しないと採算が取れないのです」と語るのは、地域精神医療の実現に長年取り組んできたA医師。精神科の医師数は一般医療の3分の1でもよいとされた「精神科特例」が撤廃された現在もその慣習が残っており慢性的な医師と看護師不足。緻密な医療が困難なため、一般病棟に比べ在院日数が多く(C)、強制入院である措置入院と医療保護入院に適用される閉鎖病棟が多くなる(D)。
「精神障害者の地域医療と地域ケアシステムが整わない限り、病床数は減らないでしょう」(A氏)
しかも、保険点数が最も高い精神科救急入院病棟は「措置入院、緊急措置入院、医療保護入院、応急入院、鑑定入院または医療観察法入院」を多くしなければならないため、「その病棟を有する病院としては、軽い表病状の人でも強制入院させたいという誘惑にかられることはあります」(同)。つまり、本来入院を必要としない人が入れられる場合もあるというのだ。
また精神保健福祉法の第23条には「精神障害者またはその疑いのある者を知った者は、誰でもその者について指定医の診察および必要な保護を都道府県知事に申請することができる」とある。また、通報もしくは「その他周囲の事情」から判断した警察官には通報義務もある。すなわち誰かに「異常」と思われ精神科病院に連れていかれると、入院させられてしまう余地があるということか……?
「強制入院の妥当性を判断する第三者機関が十分機能していない」(同)というだけに、事態は深刻だ。小誌では、そのような異常な経緯で強制入院をさせられ、運よく退院できた人々を直撃した。
医師 A氏
精神障害者に対する地域ケアシステム集実集充実のため、長年尽力している。特に精神障害者の長期入院についてさまざまな問題提起をする
A 精神科病院の諸外国との比較 Atlas country profiles on mental health resources, WHO, 2001
人口10万人対医師数
日本8.0 アメリカ10.5 イギリス11.0 イタリア9.0 カナダ12.0 ドイツ7.3 フランス20.0
医師一人当たり病床数
日本35.5 アメリカ9.0 イギリス5.3 イタリア1.9 カナダ16.1 ドイツ10.4 フランス6.0
B 人口1万人対精神病床数 OECD Health Date2007
日本28 イギリス7 フランス10 イタリア1 スウェーデン5 アメリカ3 カナダ3 韓国8
C 一般病床と精神病床の比較 2006年医療施設調査・報告
国・公的病床の割合
一般病床22.8% 精神病床9.6%
平均在院日数
一般病床19.2日 精神病床320.3日
D 入院形態と入院病棟 厚労省2006年6月30日調査
措置入院
夜間外開放3% 終日閉鎖91% 上記以外6%(目分量)
医療保護入院
夜間外開放15% 終日閉鎖77% 上記以外10%(?、目分量)
任意入院
夜間外開放46% 終日閉鎖42% 上記以外25%(?、目分量)
SPA!週刊スパ2008年6月3日号