「久しくおとづれぬ比、いかばかり恨むらんと、我が怠り思ひ知られて、言葉なき心地するに、女の方より、『使丁やある。ひとり』など言ひおこせたるこそ、ありがたく、うれしけれ。さる心ざましたる人ぞよき」と人の申し侍りし、さもあるべき事なり。
<口語訳>
「久しく訪れない頃、いかばかり(どれほど)恨んでいるかと、我が怠りを思い知られて、言葉なき心地がするのに、女の方より、『仕丁(使用人、召使い)はいる。ひとり』など言って送られるたのが、ありがたく、うれしかった。そのような心ざまをする人は良い」と人が申しました、そんな事もあるべき事かな。
<意訳>
「いろいろあってさ。彼女の家に、しばらく行けなかったんだよ。オレの事を恨んでんだろうなーと思うと、ますます行きにくくってさ。そんな時に彼女から、『使用人あまってない。一人でいいんだけど』なんて手紙が来てさ、ありがたくって嬉しかった。ホントに良く出来たいい女だよ」
なんて事を知人が語っていた。そんな事もあるだろう。
<感想>
いろいろあった男が、本命の彼女とのデートをかなり怠ってしまった。マジ、かなり長いあいだ彼女と会ってない。彼女は恨んでるんだろうなーと考えたら、ますます足が遠のく。そんな時に彼女からメールが届く。
「パソ壊れた。」
あー。オレがインストールして設定までしてやった彼女のパソコンの調子が悪いらしい。ぜひ行って直してやらねば。男は彼女の家に行く良い口実ができたとホッとして彼女の家に行く。
現代風に例えるならこんなかんじか。
会えない恨みを忘れて、サラリと甘えてくれる女はいいよね。と、ある人が兼好に語った。兼好の感想は「さもあるべき事なり」、ようするに「そんなこともあるだろう」程度の肯定。兼好は坊主だしね。溜まってる上に、世間一般の馬鹿な女に偏見もある。冷めた感想は当然だろう。ところで皆さんはこんな女をどう思う?
原作 兼好法師
現代語訳 protozoa
参考図書
「徒然草」吉澤貞人 中道館
「絵本徒然草」橋本治 河出書房新書
「新訂 徒然草」西尾 実・安良岡康作校注 岩波文庫
「徒然草 全訳注」三木紀人 講談社学術文庫