私は詩を書く人

昨日を書き、今日を書く。明日も書くことだろう。

不安の壺

2016-10-16 06:19:02 | 

不安の壺

 

      

人は誰でも 不安の壺を持っている

蓋のある壺なのだが

大きさは それぞれだ

 

蓋の開け閉めを頻繁にしている人

蓋が錆付いたまま放置している人

ときどき 思い出したように蓋を開ける人

蓋を開けたまま閉め忘れている人

 

蓋を閉め忘れた人の壺は

一番大きくて重い

 

今まで 一度も開けたことがない人も

この頃は 頻繁に

壺の蓋を開けるという

 

開けると 

生気をなくしたような顔色になるから

まわりから診察を勧められる

 

人への伝染はないのだが

心気するものに

思わず開けてしまう人もいるらしい

 

原発事故から三年が過ぎ

補償の線引きがやっと終わったものの

古里は何も変わらない

 

心療内科は

予約制なのだが

このような新患が増えているという

 

壺を持ったまま

診察室で

じっと名前を呼ばれるのを待っている

 

名前を呼ばれると

ドクターは壺の大きさをまず確かめる

蓋閉めを忘れる人には

壺の中まで

丁寧に診察する必要があるのだ

 

ときどき ドクターも

顔色を悪くしたりしているから心配だ

同じような訴えばかりだから

その気持ちが伝染したのだろうか

 

壺の大きさはまちまちだから

症状を聴きながら

壺の中を覗いたりもする

 

壺の中には

たくさんの不安が入っているから

治療する症状の

しぼり込みには時間がかかる

 

だから 診察室の中は

ゆっくりと時間が流れていく

 

壺の中では

不安の数が増えたり減ったりしているが

カルテに書き込む

症状の一つ一つに未練はない

 

人は誰でも 不安の壺を持っているが

壺を見せ合ったり

壺の大きさを競ってはならないのだ

 (詩集 桜蛍)

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