詩の自画像

昨日を書き、今日を書く。明日も書くことだろう。

この海や山の四季の中に立つとき

2017-11-26 16:46:36 | 

65

 

そこに一滴の滴があれば

大河になれる

だから降り続く雨は

いつでも大河になれるのだが

まだ震える手がある

 

秋を見送る為の手だ

 

それが小さな手であっても

水の流れの邪魔になる

震える手が去れば

一滴の滴は

心底で大河になれる

 

五感が聞き耳を立てている

 

66

 

するりと足下が滑り足音が転ぶ

 

この道は綺麗な色が沢山落ちて賑やかだが

その色や声で両の耳が塞がると

転んで怪我をする人が多くなる

 

転んだ音を治すのは大変な事だ

包帯を巻いても冬色に染まってしまう

しかし秋に戻して治療することはもうできない

 

だから一歩の踏みだしには慎重さが必要だ

 

67

 

六人に一人の子どもの貧困

差し伸べる手は沢山あるのに

どこで躊躇しているのだろうか

 

良心に従って差し伸べる手は

子どもたちにとって魔法の手となる

私の手もそうであって欲しい

 

68

 

旅人はここに留まって冬を制作している

短い時間なのだが集中力がすごい

 

雨が降り続いたので少し遅れ気味だが

十月の月カレンダーを捲れば

冬が目の前にある筈だ

 

寡黙な人だ

黙々と荒れた手で秋の蔦から冬を制作していく

小さな悩みは網目の中に隠していく

 

器用な手つきだ

 

69

 

私は店頭に並べられた一匹の魚

お客様は魚の鮮度を見て買う

 

私の鮮度は他の魚より劣っているから

買うお客様はいない

 

魚にも魚の年齢がある

魚は年齢が増すごとに旨みも増す

ほれぼれする全身の光沢

 

私にも年齢はあるが

年齢が増すごとに愚痴っぽくなり鮮度が落ちる

 

いつも売れ残る私の鮮度

 

70

 

台風が去った夜に冬が来た

風に乗って来たのだろう

 

一晩眠るごとに大きくなっていく

 

月は弓の形をして

何かを射ようとしているが

花鳥風月という

人が愛してきたものではない筈だ

 

真下に向かって矢が放たれれば

冬の背中に突き刺さる

 

そんな冒険を月がする筈はない

もう冬の中にいるのだから


水飴売りの叔父さん

2017-11-23 09:50:23 | 

水飴売りの叔父さん

            

祖父から小遣いをもらって

水飴を買った

 

一本の割りばしに

水飴が膨らんでいる

隣の友達の方が

少し大きいと

口げんかになったときもある

 

貧しかった

時代のことなのだが

 

粗末な割りばし一本に

水飴の塊が一つ

そこに青と赤の色模様が

一滴か二滴たらされていた

 

その割りばしを

二つに割って

その割りばしで八の字に

水飴を混ぜ合わせていくのだ

混ぜれば混ぜるほど

水飴は綺麗な色になる

 

水飴は混ぜ合わせることによって

固くなる時間を

上手にコントロールできる

 

我慢できなくなっては

ペロリと一口舐める

また二つの割りばしで

混ぜ合わせていく

 

それを繰り返しながら

子ども心には

粗末な割りばしが

魔法の割りばしのように見えた

 

今の混迷した政治

混ぜ合わされば混ぜ合わさるほど

ややこしくなってきて

選択肢が小さくなってくる

 

水飴のように甘い言葉があっても

平和の言葉ではない

絶対に許してはならないものがある

その選択を

見失ってはいけない

 

一本の粗末な割りばしでもいい

それを二つに割って

混ぜ合わせてもいい

絶対許してはならないものが

しっかりと固まった

平和の水飴になるのであれば

 

今は自転車で売り歩く

水飴売りの叔父さんはいないが

それぞれの人の

心の中を売り歩いている筈だ

 

自転車で田舎の方まで

水飴を売りに来た叔父さんは

水飴を買った

ご褒美として

紙芝居をみせてくれた

 

戦争で親を亡くした子どもが

貧しい生活に耐えながら

独り立ちしていく姿に

水飴を口に入れながら泣いた

 

まだ子どもだったが

戦争の悲惨さは分かっていた

 

政治が混迷している時代こそ

心の中で平和の水飴を売り歩く

自転車に乗った

水飴売りの叔父さんが

必要なのかも知れない


タイトルは決まった

2017-11-21 18:56:22 | 

タイトルは決まった。「私は考える人でありたい」

 

来年100部の限定でポケット詩集ができればいいなと

お願いする予定の友人と話をしている。

 

原発災害、津波災害のツイッター詩50作品。

七年間の自然の移り変わりの詩50作品。

 

私の夢である。


私は考える人でありたい

2017-11-21 18:55:12 | 

28

 

この大地に思いを縫い付けてきた

裁縫の布地のように縫う時に凹凸ができるから

最初は上手に縫うことができなかった

 

ただ思いを一針に込めれば

それが荒れ果てた大地であっても思いは伝わる

 

残された帰還困難区域

この大地にも一針の心で指を無心に動かせば

希望の縫い目ができる筈だ

 

 

29

 

烏が夕暮れを連れてきた

それも沢山の群れで

 

夕暮れが指さす辺りに烏の好物がある

計算で動くものの先には

必ず獲物になるものが待っている

 

ここに人が手を入れてはならない

 

私たちは「絶対」という人が造り上げた神話に

獲物のように

捕らえられていたのかも知れない

 

ここには手を入れるべきだった

 

 

30

 

生きて得た人生の知恵を瓶の中に入れてきた

沢山の知恵で瓶がいっぱいになっていた

 

蓋をしっかりと閉めて棚に保管していたのだが

ひとまわり小さくなったような気がする

 

得るものがないと一年ずつ蒸発して行くから

命の目安みたいな瓶の中の知恵は小さくなるだけだ

 

手に持った瓶の軽さに驚いている

 

 

 

 

 

31

 

冬の中にいるのに

冬のように寒いねと言っている

 

夏の時もそうだった

夏のように暑いねと言っていた

 

笑いながらだから

言っていることは分かっている

 

おじいさんになると

不思議人と呼ばれるようになる

 

帰還困難区域に住んでいた

おじいさん

 

この大地の前に立つと

言葉がこもって出てこない

 

32

 

この大地は鉛筆で描く事にした

すぐに消えるように

 

細かく荒れ果てたものを目に焼きつけ

画用紙の上に置く

鉛筆がそれを拾って形にする

 

それを何回か繰り返すと

もうそこから離れなければならない

描写の時間はそう長くはない

まだ放射線量は高いから

 

いつの日かこの大地を

絵筆で描いてみたい


 


おじいさん(推敲中)

2017-11-21 18:19:02 | 

おじいさん

 

 

冬の中にいるのに

冬のように寒いねと言っている

夏の時もそうだった

夏のように暑いねと言っていた

 

笑いながらだから

言っていることは分かっている

昔からジョーク好きなおじいさんだと

隣近所では評判だった

 

原発災害で古里を離れて

仮設住宅に仮住まいをしながら

ときどき町に許可申請をして

帰還困難区域にある家を見に行っていた

 

おじいさんになると

不思議人と呼ばれるようになるが

しっかりとした

考える芯を持っているから

もう帰れないと決断した

 

それでも 心配だから

と 家を見に行く

 

何も持ちだせないまま

今までの生活が乱雑のまま

放置されている

おじいさんにはこれが堪える

 

おじいさんの家の前には

バリケードがあって警備員が立っている

僅か数十メートルの距離なのに

許可書がないと入れない

 

家の柱に手を置くと

声がこもって言葉にならない

この無情な線引きは

これからも動くことは無いのだ

 

この家の前に立つと

おじいさんは何回も頷く

何に頷いているのかは分からない

ただ黙って頷き続けている

 

冬の中にいるのに

冬のように寒いねと言っている

夏の時もそうだった

夏のように暑いねと言っていた

 

その おじいさんから

これが我が家だ

大の字になって眠れる

大の字は大きいと書くのだぞと

そんな ジョークを

早く聴きたいものだ