若木
この若木は木に戻ろうとしている
一Fのメルトダウンにより放射能を下げるため
切り倒された庭の大木
いつの間にか新しい命が誕生していた
春夏秋冬を五年も繰り返してきた
希望とは何かを
若木は知らず知らずの内に身に付けた
空に向かって真っ直ぐに伸びろという親の教え
震災後丸六年になるから
切り倒された一年後に命が宿ったことになる
命の水は親木の導管を通して摂取してきた
まだ導管の水は欠かせない
除染が機能して
放射能の値は低くなってきたが
今も放射能の魔方陣が解けない場所がある
帰還困難区域だ
若木は空を目指して伸び続けている
津波被害を被って生き残った木が新聞に載った
この新しい命の誕生は誰も知らない
毎日若木が伸びていく、希望の木だ
切り倒された大木は神経が細やかだった
暑い夏には日陰を作り寒い冬には雪の傘となった
若木も大木になろうとしているから
親木の神経の細やかさも引き継いでいる
親木の導管から自分の導管へと切り替わると
若木は親木の衣を脱ぎ捨てる
立派な年輪も出来上がってくると
親木は切り株となって朽ちていくのだ