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足繁く通う演奏会の感想等でクラシック音楽を追求/面白すぎる台湾/イタリアやドイツの旅日記/「ドイツ留学相談室」併設

紀尾井シンフォニエッタ/ロッシーニ「スターバト・マーテル」

2013年07月26日 | pocknのコンサート感想録2013
7月26日(金)パオロ・カリニャーニ指揮 紀尾井シンフォニエッタ東京
~紀尾井シンフォニエッタ東京第90回定期演奏会~
紀尾井ホール
【曲目】
1.ケルビーニ:交響曲ニ長調
2.ロッシーニ:スターバト・マーテル
S:ラウラ・ジョルダーノ/MS:エレーナ・ベルフィオーレ/T:フィリッポ・アダミ/B:ジョヴァンニ・フルラネット/合唱:新国立劇場合唱団

ケルビーニと聞いて思い出すのはレクィエム。だがちっとも面白くない、という意味で記憶に焼きついてしまっている。今夜のシンフォニーは解説にはとても面白い音楽のように書かれていたが、さていかに…

第1印象は、オペラの序曲のように気が利いていて、歌に溢れていてなかなかいい。紀尾井シンフォニエッタの艶やかでチャーミングな演奏もいい。けれど聴き進むに連れて最初の好印象はどんどん色褪せてきた。いろんなことをやっていて、能動的に働きかけてくるところもあるが、それがいったいどうしたの? と訊きたくなってしまう。もっと気楽に聴けば楽しめるのかも知れないが、それなら指揮のカリニャーニはまだまだ真面目。もっとハメをはずして、思いっきりイタリアンな演奏をすれば、少しは面白くなる余地はあるかも。でも演奏を攻めるのは酷。やっぱりケルビーニはつまらない。

しかし今夜の目当てはもちろんロッシーニ。こちらは曲も演奏も前半とは別格の素晴らしさだった。オケは前半で聴かせた艶やかさに更に輝きを加え、ギュッと引き締まった濃い音を出し、生き生きとして機敏で軽やか。ロッシーニの魅力を十二分に伝えている。カリニャーニの演奏のアプローチはケルビーニのときとそんなに大きな違いはないが、曲が良ければこのアプローチが十分に効果を発揮する。

「スターバト・マーテル」(悲しみの聖母)と言えば、処刑されたイエスの亡骸を抱いて悲しみに暮れるマリアを歌った音楽で、歌詞も全曲通して悲痛な気分に支配されているが、ロッシーニの「スターバト・マーテル」は、悲しみなんてどこ吹く風、明るく元気で力強い。「悲しみを振り切って強く生きて行こう!」みたいな気概が伝わってくる。なかでも歌手のソロが入ると殆どオペラの世界。そしてその音楽は「スターバト・マーテル」的とは言えなくても魅力満載で充実している。

イタリアからやって来た4人のソリスト達は、そんなオペラの名場面に相応しい歌を聴かせてくれた。なかでもテノールのアダミは、「おれの歌を聴いてくれ!」みたいなアピールいっぱいで能動的。輝かしい歌声は眩いばかりだが、音域によってちょっとムラがあるかな、と思っていたところで、第2曲の最後の目も眩むばかりの強靭なDes(レ♭)の音をビーンと聴かせれば、そんな小言は瞬時に吹っ飛んでしまった。それほどスゴい声。ソプラノのジョルダーノは芯のある高貴な声と表現で、メゾのベルフィオーレは全てを包み込むスケールと深さで、バスのフルラネットは、聡明で朗々とした頼もしい歌で、それぞれの持ち歌を魅力たっぷりにアピールして、さながらオペラのガラコンサートのよう。

でもこの演奏をただの寄せ集めのガラコンサートで終わらせなかったのは、カリニャーニのキビキビして引き締まった棒さばきと、オペラチックとは言っても楽曲が有機的なつながりを持つロッシーニの音楽の力、そこには合唱が大きく係わっている。新国立劇場の合唱団は、いつも素晴らしい合唱を聴かせるので今夜も期待していたが、この合唱団の恐るべし実力を益々思い知った。輝かしい響き、緻密なアンサンブル、豊かで柔軟な表情、それに気高さも持ち、およそ合唱に求められる条件を全て完璧に備えている。前半こそ合唱は出番が少なくてソリストの陰に隠れていたが、後半はその本領を120%発揮。そして、終盤の第9曲、アカペラでの深淵な表現力でその存在感を一気に表舞台に運び、終曲の延々と続くフーガでは聴き手をグイグイと神々の世界へと押し上げて行った。演奏にがんじがらめに縛り付けられたようなパワー!

合唱がメインの楽曲が音楽の終盤で大活躍して、壮大なフーガで締めくくるという音楽の構成力が音楽全体に統一感を与え、それを眼前に示した。この曲はあまりよく知らずに聴いたが、ロッシーニは早々と隠居した後も、作曲家としての力を年齢と共に更に深めて行ったことを証明する傑作。晩年までオペラを書いていたらどんな世界が実現したかと思うと、もったいない気持ちにもなった。

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