『今日の一冊』by 大人のための児童文学案内人☆詩乃

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『ぼくとテスの秘密の七日間』

2016-08-14 21:39:45 | オランダ文学


『ぼくとテスの秘密の七日間』 アンナ・ウォルツ作 野坂悦子・訳きたむらさとし・絵 フレーベル館

昨日ご紹介した『夏の朝』は、昨年2015年の中学生の部の課題図書でしたが、こちらの『ぼくとテスの秘密の七日間』は小学校高学年の部の課題図書(2015)。
毎年書店に並ぶ課題図書見ると、「なんだかな~」って気持ちになるんです。表紙絵だけで。ただ、単に私の好みじゃないっていうだけなのかもしれませんが、課題図書に推薦してもらうために出版社側が相当お金がかかるという構造にも問題がありそうな気が・・・。いままで、課題図書って純粋に内容で選んでると思ってたんですよね、ある出版社さんの「課題図書への推薦のお話もありましたが、財政的に苦しく、わが社では課題図書からは一切手を引くことにしました」という一文を見るまでは

とはいえ、各部で1~2冊は読んでもいいかなと思うものはあります(←上から目線)。昨年でいうとその中の一冊が上記の本でした。


≪『ぼくとテスの秘密の七日間』あらすじ≫
テッセル島で出会った女の子、テス。ぼくよりちょっと年上で頭ひとつ分、背が高い。それに、ヘンなことが好きなんだ。テスはパパを知らないんだって。そんなことって、あるわけ?初めて会ったヒューホを「パパ」と認めるかどうか、テスはじぶんで決めたいと願っていて、サミュエルはそんなテスの秘密の計画に手を貸します。家族ってなんだろう。少年サミュエルの心が旅する七日間の物語。2014年旗と吹流し賞受賞(CPNB/オランダ図書共同宣伝機構選定)。 (BOOKデータベースよりそのまま転載)


とても読みやすいです。“ぼく(サミュエル)”の一人称語りなので、読書が苦手な子でもすんなり感情移入できそう。まあ、この“ぼく”は死についてぐるぐる考えちゃうタイプなので、人によってはイライラするかもしれませんが

題名からなんとなくロードムービー的なのかなと勝手に想像していたら、全然違かった。テスはテッセル島在住の地元っ子で“ぼく”がバカンスで島を訪ねてる形。お兄ちゃんがケガをしてしまったので、家族で島をまわることができなくなって、テスにふりまわされつつ、テスが初めて会うパパへの秘密の計画を手伝うはめになるんです。このテスが奇想天外かつ強引で面白い(サミュエルが情けない)。パパに自分が娘ということを知らせずに接触して、自分でパパがいる人生を選ぶか、いない人生を選ぶかを決めたい、というところはいいなあ、って思います。ストーリー展開も面白いので、本が苦手な子でも読みやすいかも。ラストのサミュエルの決断、賭けには拍手です

さて、ここからは辛口感想。読んで感動した方は読まないでくださいね






「家族」や「死」を考えるがテーマのようですが、大人である私は素直に読めないので、作者or出版社がテーマを読者に考えさせたいという感じがありありと見えると、冷めちゃうんです。読者のことなんか意識せず、自分の内面と向き合いった結果(結果というところがポイント)、普遍性を持つような物語になった、というのが個人的には好きなんですね。なので、これ読んで「家族」や「死」について私は考えさせられませんでした。ま、色んな形があるよね、それもいいよね、くらいは思ったけれど、それを我が身に振り返って考えるところにまでは至らなかった。ちょっと『ワンダーWonder』(今年2016年の課題図書)を読んだときと同じような感覚に陥った

いや、いいお話だとは思います。決して、よくないとは思わないけれど、なーんかなあ。サミュエルは自分が死ぬときにはテスがお葬式に出てくれるという約束(つまり「ずっと友だちよ」的な)に救われるのですが、そういうの読むと「あー、ハイハイ」ってなっちゃう私は性格が歪んでるのかも。さらには、それ支えにしたら、逆に危ないのでは?なーんて思っちゃったり。実際、「葬儀に出てくれるって言ったじゃないか!」って相手を逆恨みもしてますしね。まあ、この時期はこんなもんなのかな・・・徐々に学んでいくのかなあ・・・。

永遠に友だち!ってことほど薄っぺらいものはないなあって感じちゃうんです。転勤族の家庭に育ったので、私小学校は4つ通ったんですね。いつもみんな言ってくれるんです。「ずっと友だち」「忘れない」「手紙書くよ」って。でも、続かないし、自分も今目の前の生活のほうが重要になっていく(当たり前だし、そうじゃなければ逆に困るけど)。

そんな経験をしているから、いつしか人間関係は冷めて見るようになりました。続くわけないのに「ずっと」とか言われると薄っぺらいなあ、って。誠実であれば、ずっと続くわけなんてないと分かってるからこそ「今」を大事にしようと思える。「ずっと」だと思わないからこそ、その関係性自体は続かなくとも、自分の中では「思い出」という形で、永遠にできるんだと思います。

少しズレるけど、「運命の出会い」とか「永遠の愛」とか言ってた人ほど周りでは離婚したな(笑)。

というわけで、個人的には冷めた目で読んでしまった物語、まだ素直だった小学生のころに読んだら、また違った感想を持ったのかもしれません




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