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司法修習について(修習の概要~分野別実務修習まで)

2016-09-13 00:29:04 | 司法修習
お疲れ様です。

先週司法試験の合格発表があったということで、無事合格された皆様のために、修習や二回試験関係について、私が経験したところを書いていきたいと思います。
なお、開示は受けていませんが、私自身おそらく特段良い成績で司法研修所を卒業したというわけではないので、この内容がどこまで参考になるかわかりませんが、「この程度でも修習乗り切れるんだ」ぐらいの気休めにしていただければ幸いです。

第一 司法修習全般について

1.そもそも司法修習とは?


法律家として現場に出る前に、1年間実務家の方々からの指導を受け、プロとして働き始めるのに必要な知識や技術を身に着ける場です。
内容としては、和光市の司法研修所で講義を受ける導入修習・集合修習と、各地の地方裁判所・検察庁・弁護士事務所で指導を受ける実務修習に分けられます。
司法研修所での講義は、①民事裁判、②刑事裁判、③検察、④民事弁護、⑤刑事弁護の5科目からなり、各科目の教官(現役バリバリの実務家の皆さんです)から熱心に指導していただきます。
この5科目が卒業試験である二回試験の試験科目になっており、つつがなく合格すれば無事実務家デビューということになります。

タイトな日程で、体力的には結構きついですが、修習で知り合った同期とは末永く腹を割って話せる仲になりますし、将来の自分の進路とは違う職務の経験ができたり、実務家の方(弁護
士の私の場合、裁判官や検察官)と本音を交えながら話せる最初で最後の機会になります。私自身、今現在の仕事との関係では、修習で学んだことが全て役に立っているというわけではありませんが、今思い返せば貴重な経験を積むことができたと思います。
皆さんもぜひ有意義なものにしてください。


2.大まかな流れ

時系列としては以下のとおりです。

① 導入修習(11月下旬~年末)
本格的な実務修習に入る前に、研修所でその名のとおり導入に当たる講義・演習が行われます。

② 分野別実務修習(1月~8月中旬)
裁判所・検察庁・弁護士事務所を順に回り、各現場で実務家から指導を受けます。

③ 集合修習(8月中旬~9月下旬)
司法研修所で、いわゆる「起案」や模擬裁判等の演習を行います。

④ 選択型実務修習(10月~11月中旬)
分野別実務修習でフォローできなかった専門分野や自分が興味のある分野について、実務修習地にて希望するカリキュラムを受講します。
修習地によっては、③集合修習と時期が入れ替わるところもあります。

⑤ 二回試験(11月下旬)
1.で述べた5科目について、5日間かけて「起案」形式の試験を受けます。


3.各論

(1) 導入修習

修習地を基準に1クラス70人弱でクラス分けされ、各クラスごとに講義を受けます。
ちなみに、このクラスが後の集合修習でのクラスにもなります。
修習開始前にそれなりの量の事前課題が送付されてくるので、それを検討したうえで講義に臨むことになります。
司法試験とはまた違った頭の働かせ方をするので、最初はちんぷんかんぷんかと思いますが、教官の質問に答えられなくてもあまり気にせず気楽に受講すれば足りると思います。
(裁判官志望者の中には修習前からゼミを組んで対策を行う猛者もいたようです。)

それでも不安という人は、送られてくる教科書に目を通したり、要件事実の復習をしたり、民事執行・保全の勉強をしておけば精神衛生上良いかと思います。

1年間修習を共にする仲間との顔合わせ的な意味合いも強く、季節がら忘年会も兼ねた飲み会等が盛んに行われます(そこで教官とも仲良くなれます)。

ただし、冬場ということもあって研修所内でも風邪が流行るので、体調管理には気を付けましょう。


(2) 分野別実務修習

カリキュラムとしては、1クール2か月弱で、民事裁判、刑事裁判、検察、弁護の4クールが設けられています。

ア.民事裁判修習

修習地の裁判所の民事部に配属されます。私の場合は各部修習生2名の配属でした。
民事部は部長、右陪席(中堅の判事)2名、左陪席(若手判事)の構成で、書記官の方も5~6名いらっしゃいます。
内容としては、事件記録を検討したうえで、弁論を傍聴し、その後裁判官と意見交換を行ったり、検討レポート(※)を書いたりという感じです。

【(※)分野別実務修習中の事件検討結果の報告も便宜上「起案」と呼ばれているのですが、いわゆる研修所主催のテストとしての「起案」と区別するため、あえて「レポート」という表現を使用しています。】

裁判官は証拠からしか事件の全体像を把握できないので、代理人弁護士にとって証拠の出し方がいかに重要になるかが分かります。

その他、各種全体講義や家庭裁判所での調停の傍聴、起案もありますが、上記のような事件検討がメインになるので、毎日じっくり記録を検討でき、全クールの中で最も穏やかな日々が過ごせました。

部の雰囲気は部長のキャラにもよりますが、毎年修習生を受け入れているだけあって、指導熱心な方が多いと思います。
修習全体のメインテーマの一つとして、「事実認定」(証拠からどのような事実が認定できるか)が非常に重要になるのですが、この段階で事実認定の手法をマスターしておくと、後の研修所起案や二回試験にスムーズに臨めると思います。


イ.刑事裁判修習

裁判所の刑事部に配属されることになりますが、各部の修習生の配属人数は6人でした。
民事裁判修習と同様に事件の検討がメインですが、刑事裁判官は第1回公判まで記録に目を通せないため、記録を検討して臨むというよりかは集中して傍聴を行い、傍聴後裁判官との意見交換やレポート作成を行うことになります。

刑事裁判は争点整理(一つの事件の中でも、犯人性や故意の有無等、集中して審理する点を絞り込むこと)が重要なポイントになるので、公判前整理手続の傍聴などで、裁判官がどの事実に着目してどのように争点を絞っていくかを見ておくと、後の起案にも役立つかと思います。

また、事件の検討のほかに、各部に配属された修習生が裁判官役・検察官役・弁護人役に分かれてミニ模擬裁判を行います。
刑訴規則にある細かな公判廷でのルール(尋問における異議事由など)が非常に大切なので(研修所起案や二回試験でも出題されます。)、これを機に大まかに理解しておきましょう。

刑事裁判においても、刑法や刑訴法の解釈論というよりかはむしろ事実認定が重要になりますが、事実認定の手法が民事裁判と異なるので、民事裁判官との視点の違いを意識しておくと良いかもしれません。

その他、裁判員裁判、勾留質問や少年審判の傍聴、起案などがありました。部の裁判官もフランクな方たちで、修習生の配属人数が多いということもあり、比較的和気あいあいと過ごせました。


ウ.検察修習

私の場合、裁判所と異なり部ごとに配属というわけではなく、大部屋に修習生全員が集められ、その中で3~4名のグループに分けられます。
そして、グループごとに警察から送られてきた事件記録や証拠を検討し、被疑者や関係者の取調べや供述調書の作成を行い、起訴するかしないかを裁定する、といった捜査段階での一連の手続を体験します。

検察修習では「型」を重視する傾向にあり、身柄拘束の適法性、犯人性の有無、構成要件該当事実の充足性など、各ポイントについて定型のフローに従って記録を検討することになりますし、起訴状における公訴事実の書き方にも非常にこだわりがあります(この点は起案についても同様です)。
事件記録を検討する際には、公判まで見越して、捜索差押報告書や鑑定結果報告書、被疑者の供述調書などの各証拠に有罪を主張するのに十分な事実が含まれているかを検討し、足りない部分は自分たちの取調べや警察への捜査指示で補います。

検察修習でも事実認定が重要ですが、刑法における各罪の成立要件の解釈や、罪数論の知識も若干使うので、司法試験以来刑法なんかやってないよ~という人は軽く復習しておくとスムーズにいきます(後の起案にも役立ちます)。
取調べはなかなかスリルのあるものですが、よほどのことが無い限り被疑者が暴れまわるようなことはないと思うのでご安心下さい。

その他、公判段階についての修習として、公判担当検事の指導のもと、冒頭陳述や論告の作成を行う機会もありましたし、刑務所見学や希望者のみの司法解剖の立会もありました(もちろん、起案もです)。
検察官は裁判官と比べると個性の強い人が多いというイメージで、肌に合わない人や、イメージしてたのと違うという人もいるかとは思いますが、細かいことは気にせず粛々と課題をこなしていけば問題ありません。
私の場合は、グループに検察志望の人がいたので、私を含め他の班員は引き立て役に徹していました。
また、配属の修習生が一同に会するということもあり、私の周囲では淡い恋の炎が灯ったり消えたりしていました。


エ.弁護修習

修習地の各弁護士事務所に一人ずつ配属され、指導担当弁護士のもと、民事刑事を問わず、各種書面の作成や期日への立会い、法律相談への同席等を経験します。
扱う分野としては配属先の事務所の取り扱い案件に左右されることになりますが、そこまで大きく差が出ないようには配慮されていると思います。

2か月弱の間指導担当の近くで仕事ぶりを見れば、事件に対する弁護士としての着眼点や筋読みの相場感がある程度分かるようになってくるので、起案や二回試験の弁護科目において結論をはずさない力が相当養われると思います。また、弁護士費用の決め方など、ビジネス面に関わるところも見ておくと将来役に立つかもしれません。

全クールの中で一番自由度が高い修習だと思いますが、指導担当との相性が悪いと苦労する人もいるようです。私の場合も昔ながらの頑固一徹タイプの先生でしたが、途中でただ単にシャイだったことが判明し、修習の最後には激励の言葉をかけていただきました。
また、毎日おいしい昼ご飯をごちそうになり、若干ながらセレブ感を味わうことができました。

その他、弁護士会が主催する起案合宿(宴会付)にも参加しました。


長くなってしましましたので、集合修習以降の内容、起案のポイント等については、次回にしたいと思います。



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