続・エヌ氏の私設法学部社会学科

無理、矛盾、不条理、不公平、牽強付会、我田引水、頽廃、犯罪、戦争。
世間とは斯くも住み難き処なりや?

刑法第235条(窃盗)246条(詐欺)252条(横領)・・・そんな軽い罪か?

2010-11-15 | 法学講座
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刑法
第235条(窃盗)
 他人の財物を窃取した者は、窃盗の罪とし、10年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。

第246条(詐欺)
 人を欺いて財物を交付させた者は、10年以下の懲役に処する。(後略)

第252条(横領)
 自己の占有する他人の物を横領した者は、5年以下の懲役に処する。(後略)


 窃盗、詐欺、横領のように、金銭や財物の利益を目的とした犯罪を「財産犯」といいます。

 そして、財産犯の刑の重さは、おおむね被害額の大きさに比例します。
 つまり、チンケなスリやコソ泥より、巨額詐欺犯や横領犯のほうが、重い刑を課せられる、というわけです。

 しかし、犯人が被害者に与えた損害はそれだけでしょうか?
 また、直接の被害者でなくても、間接的に損害を被る人はどうでしょう?

 豪邸から盗んだ10万円と、ごく普通の家から盗んだ10万円とでは、同じ10万円でも、被害者に与える衝撃は大きく違います。

 豪邸に住む者にとっては小遣い程度だとしても、庶民にとっては生活そのものであり、家賃が払えずにアパートを追い出され、サラ金で借金をしたり・・・
 それどころか、飯も食えなくなり、レ・ミゼラブルのジャン・ヴァルジャンではありませんが、止むに止まれず万引きや食い逃げなどの犯罪に手を染めたり、女性なら、いかがわしい世界へ身を落とさざるを得ないかもしれません。

 小さな会社の事務所から金を盗んだ場合はどうでしょう。
 それは会社の大切な運転資金だったかもしれません。
 その金がなかったばかりに、不渡りを出し、会社は倒産し、従業員は解雇され、その家族は路頭に迷うこととなります。
 つまり窃盗犯は、盗んだ金額分の損害はおろか、何十人もの人生をめちゃめちゃにしてしまうのです。

 このようなことが、最高でも10年の刑期で償えるほど軽い罪でしょうか。

 「そんな事情とは知らなかった。こんな結果になるとは思わなかった」と犯人は言うでしょう。
 確かに、現在の法では、知らなかった事情やその結果にまで責任を問うことはできないとされています。

 しかし私は、その前提が間違っていると思います。

 上記は極端な例かもしれませんが、庶民が生活費を盗まれればどのような事態になるか、自転車操業の零細企業から大金を盗めばどうなるか、それが分からなかったなどという言い訳は聞き入れられません。
 なぜなら窃盗犯などは、金に困っているからこそ盗みをはたらくわけで、金に困った者の境遇を知らないはずがなく、金を盗まれた被害者が、今度は窃盗犯と同じ境遇に陥ることぐらい、分かって当然です。

 しかし、直接・間接の被害者の中には、一生を棒に振ってしまった人だっているかも知れないのです。
 それが最高でもたった10年で、罪を償ったことになるのは、どう考えても不条理です。
「知らなかった事情・結果にまで責任は問えない」という前提ではなく、
「通常人が考え得る全ての結果について責任を問う」という前提にするべきです。

 現在の刑法や裁判は、被害者の視点があまり考慮されていません。
 だから財産犯も、被害金額の大きさばかりに目を取られてしまいますが、本当は、被害者がいかに大変な損害を被ったか、という視点から量刑を判断するほうが、被害者も納得し、加害者も、自ら犯した罪の大きさを自覚することになります。

 残念ながら、このような犯罪は、裁判員裁判の対象にはなっていませんので、被害者の声を、市民感覚で判断する機会はありません。

 また、刑事(罪)と民事(損害賠償)を一緒にしないのが現在の法で、窃盗犯などが刑に服することと、盗んだ金を賠償するのとは全く別個です。
 被害者から見れば、盗った物を返してもらえないのなら、まして、失ったものを返してもらえないのなら、いくら犯人が刑に服しても、気の済むはずがありません。

 これには、罰金刑を受けた者に、罰金の支払能力がない場合の、

刑法第18条
 罰金を完納することができない者は、1日以上2年以下の期間、労役場に留置する。


と同様に、与えた損害すべてを回復するまで加害者を刑に服させ、その労働対価を損害賠償に充当してはじめて、罪と罰の平衡が保たれるのではないでしょうか。

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