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フランスに揺られながら DANS LE HAMAC DE FRANCE

フランス的なものから呼び覚まされることを観察するブログ

J'OBSERVE DONC JE SUIS

ジャクリーヌ・ド・ロミイ: 野蛮に抗する ROMILLY CONTRE LES BARBARES

2007-02-07 00:28:01 | 哲学
一年半ほど前に取り上げた人が、再び LE POINT の IDEES 欄 (「思想」 というコーナーが一般週刊誌にあるというのもフランス的か?) に登場。

Jacqueline de Romilly (26 mars 1913 -)

ギリシャにとことん惚れ込んだ (hélleniste) フランスの哲学者。もう少しで94歳になる。彼女に最初に気付いたのは年齢であったが、その学識の深さを感じ取ることができた時、尊敬に変わっていた。この方はこれまで女性の道を切り開いてこられたようで、アカデミー・フランセーズにはマルグリット・ユルスナールに次いで入り、コレージュ・ド・フランス初の女性教授になっている。今回、フランスで最高の栄誉とされる大十字レジオンドヌール勲章 (La Grand-croix de la Légion d'honneur) を女性では5人目に受章された。

  (注)レジオンドヌール勲章には、上からあげると以下の5つの等級がある。
     『グラン・クロワ』(Grand-Croix, 大十字)
     『グラン・ドフィシエ』(Grand-Officier, 大将校)
     『コマンドール』(Commandeur, 司令官)
     『オフィシエ』(Officier, 将校)
     『シュヴァリエ』(Chevalier, 騎士、勲爵士)

このインタビュー記事は、受章の機会に彼女の考えを聞こうというもので、その核心にあるのは 「思考と熟考の衰退」 に対する警告である。

"La pensée et la réflexion se meurent."

彼女の考えを聞く前に、「パンセ」 と 「レフレクシオン」 とはどういうことなのか、Le Grand Robert で調べてみた。

La pensée = Activité de la conscience considérée dans son ensemble ou ses manifestations, chez individu;
L'activité cérébrale, considérée comme la source de la faculté de connaître, comprendre, juger, raisonner...

  個人においては、意識の全体としての活動あるいはその表れ。
  知り、理解し、判断し、推論するなどの能力の源泉と考えられている大脳の活動。

La réflexion = Retour de la pensée sur elle-même en vue d'examiner et d'approfondir telle ou telle donnée de la conscience spontanée, telle ou telle de ses actes spontanées.

  自然に出てくる意識や行動の状況を検証、深化するために、「パンセ」 という行為を自らに向けること。
  (最初に使われたのは、デカルトによる "faire réflexion"、"faire une réflexion" とのこと)

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Le Point (LP) : 今回、考えられる最高の栄誉を手にしたわけですが、お気持ちは?

Jacqueline de Romilly (JdR) : これまでもいろいろの栄誉を受けてきましたが、一番嬉しかったのは初めて女性が大学に入る権利を得た1930年、17歳の時の試験でギリシャ語、ラテン語で賞をもらったことです。陶然とさせるものでした。それ以後、それに匹敵する幸福感につつまれたことはありません。

"Savez-vous ce qui m'a procuré la plus grande joie ? En 1930, j'avais 17 ans, les filles ont eu pour la première fois le droit de se présenter au Concours général et j'ai eu cette année-là les prix de grec et de latin. Rien par la suite ne m'a jamais redue aussi heureuse. C'était grisant."

あなたのご質問に答えるとすれば、自分の仕事を人に認められることはいつも気持ちのよいもので、これから自分の持てるものを出し尽くして仕事に当たっていく上で大きな励みになります。

"Pour répondre à votre question, c'est toujours agréable et flatteur pour son ego d'être reconnu pour son travail et félicité, mais c'est surtout un formidable encouragement pour continuer la lutte que je mène et assumer jusqu'au bout de mes forces la tâche que je me suis fixée."

LP : あなたはヘレニストで、消滅の道を歩んでいる古代言語、特にギリシャ語の教育が永続するように何十年も戦ってこられました。今回授章されたことで、未来は明るいとお考えですか。

"Vous êtes helléniste. On connaît la bataille que vous menez depuis des décennies pour que perdure l'enseignement des langues anciennes, et en particulier du grec, en voie de disparition. N'êtes-vous pas finalement optimiste pour l'avenir puique votre combat est reconnu et honoré ?"

JdR : 私は古代語にも、フランス語にも、古典研究一般にも、われわれの文明の未来に対しても余り楽観していません。急激な精神的目覚めがなければ、われわれは破滅に向かい、野蛮の時代に入るでしょう。今や、無関心だけではなく、理性や知性に対する軽蔑さえあります。

"Je ne suis pas très optimiste, ni pour mes chères langues anciennes, ni pour la franaise d'ailleurs, ni pour les humanités en général et, pis, guère plus pour l'avenir de notre civilisation. S'il n'y a pas un sursaut, nous allons vers une catastrophe et nous entrons dans une ère de barbarie. Il y a un désintérêt et même un dêdain pour la Raison et les Lumières."

私がギリシャの文献に惹かれるのは、理性に基づく思考や熟考の誕生との出会いであり、まだ混沌としていた世界で初めて現われた精神の輝きの迸りです。ギリシャ哲学のすべての政治倫理は、明晰さと普遍性を求めています。それは成功しましたし、全く輝きを失っておらず、彼らが求めていたことは現代的な課題でもあります。

"Ce qui me passionne dans les textes grecs, c'est la rencontre avec la naissance de la pensée raisonnée, rationelle, de la réflexion, c'est l'irruption de la lumière qui est apparue pour la première fois dans un monde encore confus et obscur. Toute la morale politique de la philosophie hellènes visent à la clarté et à la l'universel. Et elles ont réussi, rien n'a vieilli, leurs préoccupations sont d'une telle actualité !"

考えること、熟考すること、正確を期すこと、話す時の言葉を吟味すること、構想を互いに交えること、他人に耳を傾けること、これらを学ぶことこそ対話を可能にし、われわれの周りに高まっている恐るべき暴力を防ぐ唯一の方法になります。言葉は野蛮に対する盾になります。

Apprendre à penser, à réfléchir, à être précis, à peser les termes de son discours, à échanger les concepts, à écouter l'autre, c'est être capable de dialoguer, c'est le seul moyen d'endiguer la violence effrayante qui monte autour de nous. La parole est le rempart contre la bestialité.

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Unknown (kounit)
2007-02-06 19:41:12
最後の言葉素晴らしい言葉だと思いますね。
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Unknown (Nao)
2007-02-06 20:03:10
アカデミーフランセーズにはいつた、ユルスナールもロミリーもヘレニストであることが印象的です。ユルスナールの「ハドリアヌス帝の回想」の訳者,多田智満子さんもヘレニストでした。彼女たち(ロミリーさんは始めてお聞きしましたが)はたしかに「表現の力強さと具体性」にすぐれていたとおもいます。今の日本はロミリー氏の述べられた態度を喪失しました。心を正して、この記事をよませていただきました。
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kounit様 (paul-ailleurs)
2007-02-07 18:07:29
この方のお話には自分に引き付けて考えざるを得ないような言葉が溢れています。訳しながら思わず力が入っているのが分かりました。思い入れの強い訳文になっているような気がします。

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Nao様 (paul-ailleurs)
2007-02-07 18:21:22
多田智満子さんの存在、知りませんでした。ご紹介ありがとうございます。少しだけ調べてみましたが、多彩で深く考える方だったように感じました。いずれ触れてみたいと思います。

ユルスナールという素晴らしい作家がいることをフランス語を始めてから知り、彼女のシンポジウムに行ったり、晩年のアメリカでのインタビューをビデオで見たり、「ハドリアヌス帝の回想」のCDをただ流していたり、原作を読もうと思って買ってみたりしていましたが、まだ深く触れるところまで行っていません。

前回と今回のロミリさんのお話で古代ギリシャ世界に興味が湧いてきています。じっくりその中に浸ってみたいものだと思い始めているところです。
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