フランスに揺られながら DANS LE HAMAC DE FRANCE

フランス的なものから呼び覚まされることを観察するブログ

J'OBSERVE DONC JE SUIS

ギリシャ哲学者と現代 LES PHILOSOPHES GRECS ET AUJOURD'HUI

2005-08-21 08:02:27 | 古代・中世

先週の Le Point はギリシャ哲学者を特集 (En Couverture) で取り上げている。
キャプションは、「彼らがすべてを創った」 « Ils ont tout inventé. » 。

紀元前7世紀から紀元3世紀に活躍した哲学者として以下の名前が出ていた。

Thalès (タレス:625-547 av. J.-C.)
Pythagore (ピタゴラス: 570-480 av. J.-C.)
Héraclite (ヘラクレイトス: 550-480 av. J.-C.)
Socrate (ソクラテス: 470-399 av. J.-C.)
Platon (プラトン: 427-348 av. J.-C.)
Diogène (ディオゲネス: 410-323 av. J.-C.)
Aristote (アリストテレス: 384-322 av. J.-C.)
Epicure (エピキュロス: 341-270 av. J.-C.)
Chrysippe (クリシプス: 281-205 av. J.-C.)
Plotin (プロティヌス: 205-270 après J.-C.)

その中に、Jacqueline de Romilly という歴史学者とのインタビューが載っていたので読んでみた。 

彼女は 1913 年生まれとのことなので、今年 92 歳である。1973 年に女性初のコレージュ・ド・フランス教授になり、1988年にはアカデミー・フランセーズに選ばれている。最近、« L'élan démocratique dans l'Athènes ancienne» (De Fallois) という本を出している。これまで高齢でアクティブな人を見ると感嘆していたが、最早それほど驚くべきことではない時代が近づいているのかもしれない。

-----------------------------------

Le Point (LP): われわれがギリシャ人に負っているものの中で、現在のわれわれにとって何が最も重要だと思いますか。
De tout ce que nous devons aux Grecs, quel élément vous paraît le plus important, pour nous, aujourd'hui ?

Jacqueline de Romilly: 政治状況が難問を抱えている時代において、やはりギリシャの政治思想(la pensée politique grecque) でしょう。人や共同体同士の協定や市民意識 (le civisme) が失われている現在において。

一般的な側面で忘れてはならないことがあります。それは、物事の本質を炙り出し、それを普遍的で具体的に説明する必要性(le besoin de dégager clairement les notions principales, de les exprimer sous une forme assez universelle et assez concrète)を示したこと。単にある概念や価値観を見出しただけでなく、それらを力強く表現したこと。それ以後これを越えるものは出ていない。

LP:それではギリシャ人の主な貢献は明晰な表現と正確な思考ということでしょうか。
L'apport essentiel des Grecs serait donc la clarté de l'expression et la précision de la pensée ?

JdR: 正確さも勿論ですが、表現の力強さと具体性です。それが私を惹きつけるの(Voilà ce qui me passionne)。

LP:アテネは言葉の都市だったのですか。
Athènes était-elle une cité de mots ?

JdR: 都市のことに直接関与していると感じる時にアテネ人をとらえる民主主義の迸りは、すべてのことを討論するという事実と関係している。市民は理解しようとする強い欲求のなかで共に生活していた。ギリシャ社会に共通の精神が宿っていた。

LP:その中に非暴力が含まれているとお考えのようですが、ホメロスを読んでみると驚かされる。アキレスの殺意ある怒り、血塗られた歴史を考えると、ギリシャ人は好戦的(belliqueux)で戦争に明け暮れていたという印象を受けるのですが。

JdR: 確かにギリシャ人は暴力を使い、市民戦争までした。それは事実だが、暴力の中で生活することはおぞましい、戦争は止めなければならないという言葉も残っている。今日の戦争糾弾の原型になっている。

LP:民主主義、討論、非暴力のほかに重要なことがあるでしょうか。
Démocratie, débats, non-violence, qu'ajouteriez-vous d'essentiel à cet héritage ?

JdR: それは美意識です。ギリシャ人の生活にとって、芸術は非常に重要だった。
(Le sens de la beauté. Dans la vie grecque, l'art était très important, il était lié à l'amour de la vie.)

LP:最後になりますが、ギリシャ人を無視した場合に何を失うでしょうか。
Finalement, que perd-on si l'on ignore les Grecs ?

JdR: それは深い意味での人間性の発見(un sens profond de la découverte de l'humain)で、今日においても最も有用な役割を持っていると思います。最近ヨーロッパの価値をテーマにした会議で、ギリシャ人、特にアテネ人の生活を特徴付ける言葉として、「民主主義」、「哲学」、「劇場」の3つを選びました。

-----------------------------------

最後の「劇場」の意味するところがピンと来なかったのだが、パリ第一大学とミュンヘン大学の哲学教授、レミ・ブラーグ Rémi Brague という人の発言を読んで、理解できたような気がした。ブラーグは同様の質問に次のように答えている。

ギリシャ人はわれわれに理論的な姿勢、ものを見るということ (l'attitude théorique : regarder, ne faire que cela) を教えている。Theôreinというギリシャ語は、劇場などの見世物に行き、そこで語ることなくただただ見ることを意味している。より正確に言えば、それは何かを見に行くために移動すること(Plus exactement encore, c'est se déplacer pour aller voir quelque chose.)。この理論的な視点から見るためには、日常性から脱却しなければならない (Pour voir de ce regard théorique, il faut se dépayser, quitter ses habitudes.)。われわれの存在とは無関係にすでにそこに在る (déjà là) もの、彼らはそれを Phusis (= nature) と名付けたのだが、その自然をわれわれ自身の眼で見ることが重要。

人はよく 「それは何?」 (Qu'est-ce que c'est ?) という疑問を発するが、ギリシャ人はさらに 「それは本当は何なの?」 (C'est quoi, vraiment, au fond ?) と問う。そこにあるように見えているものは実際には違うものではないのか、という問である。見掛けに騙されることがあるので、より深く掘り下げてみる必要がある (Les apparences peuvent nous tromper. Il faut creuser plus profond.)。うわべではなく、真実を突き止めようとする時、われわれは皆ギリシャ人になるのだ (Nous sommes tous grecs dans la mesure où nous situons la vérité ailleurs que dans l'apparence immédiate.)。

-----------------------------------

夏休みの一日、示唆に富むお話を読みながら、ギリシャ人が私の中にも生きているような気がしてきた。

コメント (1)    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« ギュスターヴ・モロー展覧会... | トップ | 鬼束ちひろ CHIHIRO ONITSUK... »
最新の画像もっと見る

1 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
ギリシャ哲学の寒暖的解釈 (キビノ)
2010-04-29 22:03:01
 自著「哲学者16人の謎と真実」は、わずか36頁で西洋哲学史を把握できる小説である。
http://www.geocities.jp/k_kibino/page2000.html

 ここで明らかになったことは、哲学の始祖タレス、次のアナクシマンドロス、そしてアナクシメネスの3人が言ったことが、20世紀のサルトルまでの哲学史にずっとつながっているという驚愕の真実である。

 タレスの「万物の根源(アルケー)は水である」。確かに、「哲16」では水が変化する様子で16人の哲学者をまとめた。

 アナクシマンドロスは火は違うと考え、水と火の根源(アルケー)を「無限なるもの(アペイロン)」とした。確かに、「哲16」では加熱(火)と冷却(水)の無限なる螺旋回転を描いた。

 そしてアナクシメネスは、「空気(プネウマ)」を根源とし、空気が濃くなると水や土になると説いた。

 確かに、「哲16」は気体を冷却するように哲学史が冷静になっていき(ソクラテス→プラトン→アリストテレス→…)、デカルト(近代哲学の父)のコギト(考える自我)を水滴として液体の時代に入り、ヒュームの観念連合で凝固、カントの体系で固体となった。

 やがてベンサムの功利主義やヘーゲルの弁証法という運動論で固体は加熱されていき、キルケゴールの「単独者」で溶解し水滴が溶け出し、液体化する。実存主義で沸騰させ、ハイデガーで蒸発、サルトルの自由で気体となる。

 これらの様子を、「万物流転(パンタ・レイ)」を説いた哲学者ヘラクレイトスはこう描いた。
「火は土の死により、空気は火の死により、水は空気の死により、土は水の死による。(断片76)」(ウィキペディアより)

 空気→水→土→火 = 気体→液体→固体→液体

 そう、物質の状態のように精神の状態も変わる。これが哲学史の真実である。

返信する

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

古代・中世」カテゴリの最新記事