フランスに揺られながら DANS LE HAMAC DE FRANCE

フランス的なものから呼び覚まされることを観察するブログ

J'OBSERVE DONC JE SUIS

中世とは - ジャック・ル・ゴフ (IV)

2005-05-29 11:08:08 | 古代・中世

ル・ゴフさんとのお付き合いも今日で一応終わりになるので、もう一頑張りしてみたい。今回も難しい言葉 (scientificisation などという) や表現が沢山出てきて大変であったが、いろいろ勉強になった。そのいくつかを書いてみたい。

********************************

中世は大雑把に言って、女性の地位向上 (特に結婚において) の時代であった。妻の同意が必要で、妻が夫と同等の価値を持つと決められるようになったのは中世だという。

Le Moyen Age a été, grosso modo, une période de promotion de la femme. En particulier à travers le mariage. C'est le Moyen Age qui a pris cette décision, fondamentale, que le consentement de l'épouse devait étre aussi nécessaire et avoir la même valeur que celui de l'époux.


女性と男性が平等であるということを最初に言ったのが、神学者トマス・アクイナス。昔聞いた名前であるが、このことは初めて知った。彼について、こんなエピソードを読んだことがある。

「民衆は聖者を崇拝し、その遺物を崇拝し、聖者が死ぬと争ってその骨や毛髪を手に入れようとした。十三世紀の聖者、聖トマス・アクイナスは、死んだとたんに遺体を修道士たちによって料理されてしまった。修道士たちは、聖トマスの貴重な遺物を失うまいとして、頭を切り離し、身体を煮てしまったのである。」 (村松剛 『ジャンヌ・ダルク』 中公新書)

********************************

「これまで中世を絶賛してきたが、美化しようとばかりしているわけではない (Je ne suis pas un hagiographe du Moyen Age.)。創造性には富んでいたが、宗教裁判を考え、拷問、不寛容、階級社会、貴族階級などを導入したことを忘れてはいない。」

J'affirme que ce fut une des plus grandes période créatrices mais je n'oublie pas que le Moyen Age a aussi inventé l'Inquisition, a introduit la torture, l'intolérance, la hiérarchie et l'aristocratie.....

********************************

中世の思想は、一般的に不吉なもの、死を連想させるもの (le macabre) と考えられているが、むしろ楽観主義 (l'optimisme) の方が優勢である。それはおそらくキリストの復活への期待が関係しているのではないか。le macabre が出てきたのは最後の方だけ。

********************************

「最近、シャルル7世 (Charles VII :1403 - 1461) の愛妾アニェス・ソレル (Agnès Sorel :1422-1450) の骨が出てきて、彼女が殺されたのは本当なのか、どのように殺されたのか、というようなことが話題になっていますが、お考えは?」

→ 余り興味ありません。彼女の政治的役割が限られており、彼女に対する興味は、最初の王の愛妾 (maîtresse royale) であったということから来ているのではないか。しかし、聖ルイ (ルイ9世:1214 - 1270) の時代までは貴族は一夫多妻制 (polygamie) であったために愛妾がなかっただけの話で、歴史家にとっては王の私生活は問題にならない。

********************************

最後に、自伝を書く気はないかと尋ねられて、Ah, non, ça jamais ! と答えている。自伝は虚栄のための愚行で、嘘をつくために書くのだ。Non, c'est dégueulass. (むかつく) とまで言っている。中世が魅力的なもうひとつの理由は、自伝を書くという風習がなかったことだ。数ヶ月前に奥さんが亡くなり相当に落ち込んでいたようだが、彼女については書いてみたい、それが最後の本になるだろうと話していた。

彼の本をサーチしている時に、「ル・ゴフ自伝」というのが出てきた。「自伝」とあるので思わず原題を見てみると、« Jacques le Goff : Entretiens avec Marc Heurgon » となっている。この邦題は彼の意思には沿わないのではないだろうか。

********************************

読み終わって、余り見るべきものがないと思っていた中世の暗闇に少し光が差し込んできたように感じる。

中世とは - ジャック・ル・ゴフ(I)
中世とは - ジャック・ル・ゴフ(II)
中世とは - ジャック・ル・ゴフ(III)

コメント (2)    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 学歴より病歴 - 老年礼賛 | トップ | 雨の日 »
最新の画像もっと見る

2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
中世はおもしろいですね (夢のもつれ)
2005-05-31 15:59:19
ル・ゴフさんに関する記事を興味深く読ませていただきました。

l'imaginaire (médiéval)、avoir une vue synthétique、「神、キリスト、聖母、聖人、天国などに対する人々の vision (イメージ、見方) のすべてが l'imaginaire に属する」、「経済的・社会的側面が時代の骨格であるとすれば、l'imaginaire が肉に当たる」、la cathédrale, le château fort et le cloître……いいですね!とてもイメージの喚起力が強い文章ですね。



ずっと以前から、中世には興味があったんですが、なかなか手が回らなかったです。哲学にしてもトマス・アクィナスや道元は、プラトンやアリストテレスに比肩しうるもので、現代哲学なんか目じゃないって思っています。老後の楽しみに中世思想なんていいなぁ。



そうそう、勝手ながら私のブログにbook markさせていただきます。
返信する
面白いことが埋まっていそうです (paul-ailleurs)
2005-05-31 21:41:12
この世には知らないことばかりであることを痛感。それゆえ、これからは知る楽しみしか残っていないという点で幸せなのでしょう。



最近、時の中に埋もれているものに非常な興味がわいています。中世などは今まで気にもかけていなかった世界。今回ル・ゴフさんに会ったおかげでその世界も身近なものになりつつあり、仄かな喜びを感じています。



Bookmarkまでしていただき、ありがとうございます。



返信する

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

古代・中世」カテゴリの最新記事