フランスに揺られながら DANS LE HAMAC DE FRANCE

フランス的なものから呼び覚まされることを観察するブログ

J'OBSERVE DONC JE SUIS

学歴より病歴 - 老年礼賛

2005-05-28 16:36:12 | 出会い

中世についての本を調べている時に、藤原書店のサイトに行くと 「老年礼賛 鶴見俊輔・岡部伊都子の対話」 (藤原書店) というDVDが目に入った。面白い話がありそうなので、見てみることにした。

二人とも80歳を越えている。鶴見は大病(カリエス)をし、岡部は病気ともに生きてきたようなものだと言う。以前に、なぜ病気があるのか、という問題について触れたが (15 mars 200517 mars 200523 mai 2005)、その答えのひとつなるようなことが話されていた。

岡部の「学歴は余りないのですが、病気だけはよくしてきました」というような発言に対して、鶴見がひとつの見識をまとめている。「病歴というのは学歴にまさる力をもつと思うんです。それは、じっと寝ていると、自分の中の自分との対話ができてくるわけ。人との対話と違うし、世の中についていくというのと、ちょっと違うんですね。自己内対話という積み重ねが加わるでしょう。それが自分の精神をつくってるんですね。」 最初の問いとの関係で言えば、病気は自分を深めるためにあるという答えを出しているようでもある。

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鶴見の父親が政治家であったためにわかるのだが、として次にようなことを言っていた。政治家は人を騙す(のが仕事な)のだが、それを声に出して言っているうちにそれを聞いている自分をも騙していくようになる。いつの時代でも(戦争に進む時でも今でも同じようなことが)起こっているという。付け加えると誰にでも起こりうることでもあるのだろう。


鶴見 「明治以前が素晴らしい。明治の人は江戸は野蛮だと言っていたが、そんなことはない。良寛などという偉大な人を出している。最後は自由恋愛までしている。」
(ルネサンスの人が中世を野蛮だと見ていたという話(26 mai 2005)ともどこか共通するところがある。新しい物を手に入れると文化的水準が上がったと錯覚するのが人の常らしい。)


最後は二人そろって、これまで死ぬと思ったことが多いので、生き過ぎたという思いが強い。だからいつ死んでもよい、死ぬのが怖くない。そうなると老年の自由を味わえる。「若さからの解放」が相当に楽しいのだという(自分でも少しわかりかけてきているか?)。最後まで機嫌よく行きたいですね、というところで終わっていた。

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死の受け止め方についてジャン・コクトーも同様のことを言っている。「あまりに耐え難い時期を何度もくぐり抜けて来たぼくにとって、死は何か甘美なもののように思えていた。そこからぼくは死を恐れず、死を凝っと正面に見据える習慣を身につけた。」 <「ぼく自身あるいは困難な存在」 (ちくま学芸文庫)>

また、「機嫌よく」という言葉を聞いて、« alacrité » とともに89歳まで生きたことを伝えていた Saul Bellow の追悼記事を思い出していた(20 avril 2005)。

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5 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
TBありがとうございました (華やぐ時間)
2005-07-03 22:52:18
わたしは学生時代とその後数年を京都で暮らしました

その間 鶴見氏を囲んで話す会の末席に座らせていただきました

鶴見氏は皆の会話にヒョイと唐突な感じで 目からウロコのひと言を発せられます

皆の議論よりも 鶴見氏の気さくなお人柄をポーッと見つめていて 楽しい時間でした
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TBありがとうございました (華やぐ時間)
2005-07-03 23:05:23
わたしは 学生時代とその後数年を京都で過ごしました

その間 鶴見俊輔氏を囲んで話す会の末席に座らせてもらいました

皆の話す様子をニコニコ眺めている鶴見氏は 唐突って感じで ヒョイとひと言を発せられる

こむつかしい わかりにくい議論の中に とてもしなやかなひと言です

気さくなお人柄をポーッと眺めて楽しい時間でした
返信する
コメントありがとうございます (paul-ailleurs)
2005-07-04 02:16:03
先日パリの図書館で初めて意識的に見たサルトルの姿のどこかに鶴見氏と重なるところがあったように思いました。言葉でどういえばよいのかわかりませんが、一瞬そう感じました。おもねないというところでしょうか、、
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そそっかしくて・・ (華やぐ時間)
2005-07-04 08:13:46
ご紹介いただいた本を読んでみます・・と言いかけて え DVDで探せばいいのでしょうか

懐かしく読んでみたいと思います。  観てみる(?)



私たち未熟の者達への鶴見氏の言い方・その視線が温かいと感じたものです 





ブログがbusyの時は 投稿が即掲載・・ではないのですね。

焦って二つも送ってしまいました

この文と上記の一つを どうぞ削除してくださいませ



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特に問題ありませんが... (paul-ailleurs)
2005-07-05 14:59:23
DVDが藤原書店から出ていますので、個人的にご存知であれば見方も変わってくるのではないかと思います。お楽しみください。
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