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今日見た映画の覚え書き(のみ)

『ビフォア・サンセット』

2008-05-10 08:45:17 | 外国映画
今日見たDVD; 『恋人までの距離(ディスタンス)』Before Sunrise(1995/アメリカ)
       『ビフォア・サンセット』Before Sunset(2004/アメリカ)
監督*リチャード・リンクレーター
出演*イーサン・ホーク(ジェシー)、ジュリー・デルピー(セリーヌ)

この2作品は原題からもわかるようにシリーズものだが、Before Sunriseの登場人物の9年後の話を本当に9年後に同じ俳優で撮っているのがBefore Sunsetで、ドキュメンタリーのような面白い連作になっている。全編ジェシーとセリーヌのふたりの会話だけで成り立っていて、脚本を監督とこのふたりの俳優が共同執筆しているというから、実際にもドキュメンタリー的な部分があるのだろう。

『ビフォア・サンライズ』ではヨーロッパを一人旅しているアメリカ人の学生ジェシーが列車のなかでパリへ帰る途中のフランス人学生セリーヌと出会い、話をしているうちに意気投合し、途中下車して夜明けの一番列車の時間まで(=before sunrise)ウィーンの街を歩きまわるという物語。その間、ふたりは一瞬の間も置かずに自分のこと、家族のこと、友だちや恋人のこと、人生観、世界観、将来の夢を語り合い、しだいに気持ちを通い合わせていく。「いやぁ、超ヤバくないすか」「え~、マジィ?」というような語彙赤貧の日本人の若者にはあまり見られないような恋の進展。そしてふたりは6か月後に同じ場所で会うことを約束して別れる。ここまでが"Before Sunrise"のストーリー。

その続きの話を9年後に撮るというのがすごい。『ビフォア・サンセット』では9年後にふたりがパリで再会し、アメリカへ帰るジェシーの飛行機が出発する夕刻まで(=before sunset)、パリの街を歩きながら9年間のことを語り合うという設定になっている。9年の間にふたりともいろいろなことを経験し、幻滅し、妥協を覚えている。それだけに、会話はストレートで気負いもあったBefore Sunriseよりもニュアンスに富み、屈折していて、ずっと面白い。ジュリー・デルピー自身もちょっと疲れた感じが魅力的だし、イーサン・ホークはひどくやつれていて、9年という歳月をまざまざと感じさせる。

そもそもこの映画を見ようと思ったのは、「シェイクスピア・アンド・カンパニイ書店」が出てくると友だちに教わったからだ。冒頭シーンの、作家になったジェシーがサイン会をしているセーヌ河畔の書店がそれだ。ここは私のお気に入りの書店で、何度か行ったことがある。低い天井や妙なところにある柱が何間続きかのふつうの住宅を改造したことを思わせる店で、古い革張りの肘掛け椅子にすわって本を読んでいる人などがいて、誰かの書斎にいるような雰囲気があった。しかしよく調べてみると、ここはジョイスの『ユリシーズ』を出版したシルヴィア・ビーチの店と同じではないらしい。場所も違っている。どういういきさつなのか、1950年代にアメリカ人男性が店名を引き継いでいまの場所に開いたもののようだ。それでもこうして名前が残っていて、いろいろな人の思い出の場所になっているのはうれしい。

この書店を出てセリーヌのアパートまで歩く道のりが2作目の全背景で、ぐずぐずしていると飛行機に乗り遅れるよ、というところで終わるのだが、たぶんまた9年後くらいに3作目がつくられると、やっぱり二人はどこかで再会を懐かしんでいて、思い通りにならなかった人生をほろ苦い思いで振り返っているんだろう。そうでなければ物語は続かない。