日本一“熱い街”熊谷の社長日記

組織論の立場から企業の“あるべき”と“やってはいけない”を考える企業アナリスト~大関暁夫の言いっぱなしダイアリー~

稲盛、ゴーンの「ビジョン経営」が、今こそ政治に求められている

2012-11-16 | 経営
最近新聞で読んだ日本を代表する二人の経営者の言葉に、今の日本の政治をダブらせて思うところがあったのでそのお話をひとくだり。

件の記事は、日経新聞10月31日付掲載の「日経フォーラム世界経営者会議」における、稲盛和夫日本航空名誉会長、カルロス・ゴーン日産自動車社長の談話です。引用します(趣旨抜粋)。

「リーダーは、次の4つのことを果たす人だ。第1は組織の目指すビジョンを高く掲げる人。第2は組織のメンバーとビジョンを共有できる人。第3は人間性。最後に業績が向上する仕組み作りの能力」(稲盛和夫)

「日産は、原価低減やリストラの結果再生できたのではない。あるべき姿、ビジョンを描いたから再生できた。そのビジョンを従業員が共有し、同じベクトルに向かってモチベーション上げた。組織やプロセスを優先させると残念なことになる」(カルロス・ゴーン)

日本航空、日産自動車という日本を代表する企業を再生させた2人の経営者が言っていることは、あまりに共通しています。リーダーにとって重要なことはビジョンを明確に掲げることであると。そしてそれをメンバーと共有しつつ前に進むことだと。仕組みづくりや戦術はその後。その順序を間違えるとうまくいかないと。

これはまさしく今の日本の政治にも当てはまることではないのかと思います(従業員、メンバーと言う言葉は国民に置き換えて読みます)。日本の政治はいつの日からか、ビジョンレスになっています。「とにかく政策。政策の一致が第一」といわゆる“第三極”の政治家の皆さんは口々におっしゃいますが、本当にそうでしょうか。先の2人の有能な経営者の言葉を借りるなら、政策優先は残念なことになるのでビジョンが先ではないのでしょうか。

どういう日本をつくるのか、どんな国民生活を実現しようとしているのか、今の政治家の言葉からは残念ながらビジョンが見えてきません。石原慎太郎氏が言う、「政策の一致など後でいい。とにかく今は大同団結するすることだ」という言葉の意味が、「ビジョンが明確に一致するのならそれでいい。政策はあとからついてくる」と言う意味であるのなら、その考え方は正しいのかもしれません(残念ながら、今の段階では石原氏が必ずしもそう言っているようには思えませんが)。

政策はあくまで具体的なビジョン実現に向けた戦術であるべきで、「まずは政策、政策」とビジョン議論そっちのけで、戦術に関する議論とすり合わせばかりが行われても、それは実質国民不在の耳障りの良いキャッチフレーズづくりにすぎないのではないかと思われるのです。ちなみに、新体制がスタートした中国の習近平体制は、2020年までに国民所得を倍増させるという明確なビジョンを掲げてスタートしています。

ビジョンとは、近い将来の目指す姿を具体的に示すものです。ビジョンを理念と混同されるむきも多く見受けられますが、理念とは依って立つべきミッションであり、ビジョンの根底を支える存在であります。

衆議院の解散が本決まりとなり、総選挙に向けてあわただしさを増す政界ですが、雨後の筍の如く新党が増殖した今回のような政局においてはなおさら、国民の正しい審判を仰ぐためにも、各政党は耳障りのいい政策を並べる前にその前提となる具体的なビジョンを提示すべきであると思います。

今の日本は、一時期の日本航空や日産自動車に相当するような危機的な状況にあると言えます。そんな時であるからこそ、それらの企業を見事に立て直した経営者の言葉は重みをもって受け止める必要があるでしょう。ならばこそ、彼らが口をそろえて言っている「まずビジョンありき」は、政治家の皆さんにはしっかりとご認識いただいた上で選挙戦に臨んでもらいたいものです。もし、それができないなのなら、結果どの政党が政権をとることになろうとも何も変わらないと、2人の経営者の言葉は示唆していると思えます。

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