ヘルンの趣味日記

好きなもののことを書いていきます。

ハーラン・エリスン「世界の中心で愛を叫んだけもの」

2017年04月14日 | SF


何か間違っているかも、と思いますが感想を書いてみたいと思います。
(買った文庫本がみつからなくて読み返していないので)
ブログを書いている人間は適当なので、適当に読んでください。

ハーラン・エリスンの有名なSFです。

読んでも最初はよくわかりませんでした。ニューウェイブ系は難しいです。
ある程度理解して読み返すと、これはとても面白いなと思ったのですが、同時に、あれ?これ、コードウェイナー・スミスの作品が下敷きではないかな? 
と思いました。

コードウェイナー・スミスの「クラウンタウンの死婦人」。
ハヤカワからでているスミスの短編集の「シェイヨルという名の星」に収録されている中編です。
動物の属性をもつ、下級の民と人間の関係を描いた話です。

エリスンはこれを美しく磨き上げて難解にした感じです。

エリスンの「世界・・」は黙示録からの影響が言われていますが、それはおそらくテーマでなくディテイルの部分だと思います。竜とか。
黙示録には殉教思想というのはとくに見当たらなかった気がします。
スミスのクラウンタウンはジャンヌ・ダルクの殉教をモチーフにした物語で、そのテーマがエリスンにも引き継がれています。
パクったわけではなく、オマージュ、あるいはスミスが何かをモチーフにしたように自分もやってみたのかも。エリスンはスミスを尊敬していたそうですから。
さらにタイトルの「愛を叫んだけもの」。
クラウンタウンのクライマックスで、けものたちが、「愛している!」と叫ぶので、ほぼネタ元バレバレ、わかってください。ではないかと思います。

数あるスミスの小説の中でもクラウンタウンは好きな作品の一つです。

虐殺の場で殺される側が自分を殺すものにたいして「愛している、愛している!」と叫ぶのですが、エリスンにも同じようなシーンがあります。
このスミスの狂気はほんとにすごみがあって、何度も読み返す場面です。
エリスンはあらゆる存在というか、世界への愛情を告白して、自分の信念を演説します。

どちらも、自分と関わりのない存在への愛情、世界全体への愛情を示すために死んで(あるいは破滅)いきます。キリスト教のようなテーマでしょうか。

二作品はほぼ同じテーマですが、対比がとても面白いな、と感じました。

趣味の作家と職業作家の違いがわかるようだからです。

スミスは本業は学者で小説は趣味。
エリスンは筋金入りの職業作家です。

その違いがよく表れて面白いのです。

アイディアはスミスが優れています。
ジャンヌ・ダルクの殉教から発想を得て、すばらしい小説を書いています。
このプロットならもっと長く書いてもいいし、プロなら普通はこれで2、3作書くでしょう。

たくさんのネタをたったひとつの中編にしてしまいました。
小説で生活しているわけではないから、惜しげもなくアイディアを使えるのでしょう。

では、職業作家のエリスンの長所は。

スタイリッシュなことかなーと思います。大変洗練されています。
テーマは同じでも、展開も結末も文章も隙がありません。要素を絞って、それを時間をかけて練りに練った小説だろうと思います。

「クロスホエン」という言葉ひとつにかなり色々盛っています。

とにかくかっこいい。そしてラストのあたりは、詩情があります。一枚の絵のように美しくまとまっています。映像が浮かぶようなのです。この手腕はやっぱりすごいのです。

私はクラウンタウンのほうが好きだけど、やっぱりエリスンのこの作品も素敵だなあと思います。
スミスが荒っぽくて、洗練されていないけれど独特で幻想的な個性のある作風であるのに比べて、エリスンは隙がなく、難解で、細部まで磨き上げられて美しく、感傷的かもしれませんがとにかく美しいです。文章をかく専門家だというのがわかる感じです。
そのかわり、スミスの狂気のようなインパクトはあまりないようです。
ソフィストケイションとかスタイリッシュという言葉が似合うのです。
ここが魅力的です。
画家が時間をかけて計算しつくして緻密に描いた絵のようです。考え抜いて書いた作品です。
スミスは、書きたいことを書いた印象です。もちろん、仕掛けも技巧もあって、上手いと思います。でもどうして、もう少し要素を絞らなかったんだろう、とか思います。

それでも作者の書きたいという気持ちとテーマがダイレクトに強く読者に伝わります。

語り口も少し似ています。スミスもエリスンもおとぎ話を語るような感じです。
スミスは楽しんでいるような感じです。エリスンを読むと、どれくらい考え抜いた展開と言葉かみてみろ、というような職業作家としての意地というか、気迫があります。

エリスンが自分のことをSF作家ではなく、ファンタジストといっているそうですがスミスの小説もSFというよりモダンなおとぎ話といわれます。
エリスンはそのへんも影響されているのかもしれません。
スミスがほんとうに好きなんだろうと思います。


スミスは大好きな作家なので、また後でいろいろ書いてみたいと思います。