鈴木基一と酒井抱一の展示を出光美術館でみたことがあります。
酒井抱一の絵はあまりよくわからない。
なんとなく洒脱とか遊びの雰囲気があります。
鈴木基一の絵はなにか違う感じがします。
基一の展示された作品にはどれも芸術への強い意志と情熱があるようにみえました。
まあ、勝手にこちらでそう思っただけですが、そんなことを素人に思わせるような絵だったのです。
いろいろなものを犠牲にしても絵をかきたいという意欲が絵にあるように感じます。
芥川の小説のように、芸術のために娘を犠牲にするような変に深刻な話は好きではありません。
画家が幸せになる話の方が好きです。
ただ、芸術を目指す人はつよい情熱をもっているように思います。
「バジル氏の優雅な生活」というマンガがあります。
かなり昔のマンガですが大好きで何度も読んでいます。
19世紀末のイギリスが舞台で
貴族のバジル氏とその友人たちの話です。
友人の一人に画家がいます。
画家には、美しい妻がいて大変仲がいい。
でも奥さんが主人公のバジル氏にふと本音をいいます。
「夫は私が死んでも生きていけるけれど、絵がかけなくなったら死んでしまうでしょう」
「だから結婚をときどき後悔する」
画家は彼女をとても愛していますが、それでも彼の一番強い情熱は絵を描くことに向いていて、
描きたくなると、妻になにもいわずに主人公の屋敷にやってきて滞在して絵を描き続けたりします。
奥さんが心配しているだろうと思って連絡します。
そのときの彼女の言葉です。
バジル氏は彼女に「彼はあなたをとても愛していますよ」といいます。
それも本当のことなのです。
だから画家が完成させた絵をみたバジル氏は「幸福な絵」だと評します。
愛する家族がいて芸術に打ち込む、幸せな画家なのです。
彼の妻は少しの寂しさをかかえつつ理解します。
とても好きな話です。
画家が芸術と引き替えに幸せを失う話は多いですが
不幸にならなくても絵はかけるのではと思います。
それでも、程度はあっても大事なことを犠牲にしているんじゃないかとも思います。
基一の人生は知りませんが、彼の中で一番の情熱は絵を描くことだったのではないかと彼の作品をみて思いました。